【復興の道標・賠償の不条理-5】家庭不和の引き金にも 巨額なお金、相続影響

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避難者が生活する仮設住宅。賠償金の存在が、家庭内に亀裂を生み出しているケースがある

 原発事故で被災した人たちが賠償金を受け取るのは当然の権利だ。しかし、家族間であつれきが生じるケースも一部で出ている。

 「そんなにもらえんのか?」。福島市の仮設住宅で暮らす飯舘村の男性(74)は、同じ仮設に住む高齢者が原発事故の賠償額を全く知らなかったことに衝撃を受けた。

 東京電力は、帰還困難区域の避難者に5年分として1人当たり600万円など、区域に応じて精神的損害の賠償を支払っている。この高齢者が賠償について知らなかったのは、世帯主の息子が東電から家族分を一括で受け取ったが、そのお金について両親に説明していないことが原因のようだった。

 息子が家族全員分の賠償を、土地購入や建物の新築など移住の費用に充てる一方、高齢の父母は年金だけを頼りに、家賃のかからない仮設でつつましく暮らしている―。男性はそんな家族をいくつか知っている。

 高齢者に支払われる賠償金をめぐり、親子の間でけんかになったケースもあった。「東電の賠償金は、避難者の家庭内に『騒ぎ』を起こしている。ここの仮設だけの話ではない」

 男性は、個人単位で計算される精神的賠償について、支払い方法を再検討してほしいと考えている。「世帯主に家族分全て支払うのではなく、確実に本人の手に渡るような工夫が必要。家族が仲良く暮らせるよう配慮してほしい」

 避難区域に残された土地や建物に対するものも含めると、家族によっては1億円を超える金額になる賠償金。巨額に上るだけに、家庭内不和の引き金にもなっている。

 相続をめぐる親族の思いにも影響を与えた。「原発事故前は仲が良かった親族間に亀裂を生じさせている。とても残念なことだと思う」。避難者の介護に携わる女性が考えるのは、避難後に亡くなった知人の男性のことだ。

 女性によると、男性は原発事故前、家族に対して生前贈与の手続きをしていたが、別居していた親族が相続に疑問を呈し、争いが生じた。

 亡くなった男性の賠償金の一部は、財産を生前贈与したことに伴い、家族に渡ることになった。別居していた親族は事故前から避難区域外に居住していたため、東電の賠償対象ではなかった。女性は、巨額の賠償金がなければこうした争いは生じなかったと感じている。「お金は人の気持ちまで変えてしまうのか」。さみしさが拭えない。

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 東京電力は、2011(平成23)年8月に原子力損害賠償紛争審査会がまとめた賠償の中間指針に基づき、精神的損害(1人月額10万円)や就労不能損害などに対する賠償金を被災者に支払ってきた。東電が支払った額は今年2月現在、個人や法人などを合わせて約5兆9167億円に上る。

 このほかに、商工業者には震災前と比較した減収分を補償する営業損害賠償なども支払われている。

 賠償の支払い実績などを報告している「新・総合特別事業計画」は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構のホームページ(http://www.ndf.go.jp)に掲載されている。

 (2016年3月8日付掲載)

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