「賠償の不条理」編へ識者の意見【番外編】生島浩氏・福島大大学院人間発達文化研究科教授

 
生島浩氏

 ◆生島 浩氏(家族臨床学)

 子どもへの影響心配

 連載第1回で避難者の医師が「人間の本質を踏まえ、もっと早く賠償の在り方を議論すべきだった」と語っているのが印象的だった。

 私が専門とする心理学の観点から人間と賠償金の関係を考えると、働いて得たお金が「もっと頑張ろう」と人の気持ちをプラスに向かわせてくれるものである一方、原発事故の賠償金は自宅に住めなくなったことなどを償うお金であるため、マイナスの気持ちを膨らませることがある。

 被災者に当然支払われるべきものではあるが、「賠償金があるから無理に働かなくてもいいか」と意欲の喪失につながる。今後は、前向きに何かに取り組もうとする人にきっかけを与えたり、後押しするような心理的なものも含めた支援がこれまで以上に必要だ。

 最も心配なのは、子どもへの影響だ。働いていない親の背中を、仮設住宅などの至近距離で5年間見続けてきたことが、子どもの勤労意欲を阻害することにつながらないか。子どもの問題行動のリスクを早期に見極め、専門家につなげる体制づくりが急務となる。