【復興の道標・名なしの土地-中】10アール農地「所有120人」 資産価値低いほど

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津波被災地に沿って復旧作業が進む県道広野小高線の工事現場=広野町

 「ここには所有者が120人を超えていた土地があった」。大規模な復旧や再開発事業が続く広野町沿岸部で、町建設課長の坂本久男(58)は教えてくれた。

 震災から5年が過ぎ、津波の跡には6階建てのオフィスビルや、真新しい災害公営住宅が立ち並ぶ。

 海岸線に沿うようにかさ上げされた県道広野小高線(通称・浜街道)から続く斜面では、9月完成に向けて重機が仕上げの作業に入っている。

 震災後、この地区の一角、10アールに満たない農地の買収について、坂本は県から助言を求められた。現場は浜街道を復旧させる予定の土地だ。調べると、所有者は全員で120人以上に上った。

 ここは地域住民が共同所有していた農地で、最後に登記されたのは明治時代。所有者の多くは亡くなっている。坂本は「こういう土地は家系図をたどり、権利者を少しずつ特定していかなければならない。避難中の人もいて、会うことすら大変だったと聞いた」。震災の復旧事業は中間貯蔵施設に比べて住民の理解は得られやすいが、結局この土地の取得には1年以上を要した。

 震災後、海からの高さなどが見直された浜街道は防潮堤の役割も兼ね備え、幅50メートルに及ぶ防災緑地も併せて造られる。中間貯蔵施設の建設で浮き彫りとなった所有者不明の土地問題は、広い土地の集約が必要な復旧工事の現場でも担当者を悩ませている。

 民間調査研究機関「東京財団」は3月、全国の市町村を対象に、土地の所有者の居所や生死が分からない「所有者不明」の問題の調査結果を明らかにした。回答のあった市町村のうち、土地の所有者が不明で行政に支障があった市町村は6割を超えた。持ち主が分からず固定資産税の徴収が難しくなったり、放置された土地が荒れるなどの問題が起きているという。

 調査を担当した東京財団の研究員吉原祥子(45)は「法的な要因に加え、社会の変化に伴い、利用の見込みや資産価値が低い土地が相続を契機に放置されてきた。特に人口減少と地価下落の進む町村部ほど、こうした例が増えている」と分析する。

 今の制度では、相続の登記は任意とされている。価値の低い土地を受け継ぐメリットは少なくなり、持ち主が分からない土地は今後も増えることが予想される。「所有者不明」の土地の問題は全国の地方に共通する課題でもある。(文中敬称略)