【復興の道標・5年の歴史-4】顧客減少、風評だけか 福島県外し「東北5県」

 
田植えが済んだ水田を見渡す新妻さん。震災後5回目の作付けに意欲を燃やす=広野町

 「風評って一体何なのか。原発事故があったからこそ応援してくれる人がいて、大口の取引につながった」

 東京電力福島第1原発から半径30キロ圏内の広野町で、2012(平成24)年にコメの作付けを再開した新妻有機農園代表の新妻良平(57)は語る。

 震災前から収穫したコメを独自に獲得した顧客に直売してきた。原発事故で顧客が減ったのは事実だが「米価の下落や後継者不足は原発事故前から根底にあった問題だ」。そう割り切り、県内外のイベントへの出展や顧客への丁寧な情報提供など、新たな販路を開拓する活動に力を尽くしてきた。

 新妻を応援する顧客は着実に増え、昨年の農業収入は黒字に転換した。「やってみなければ分からない」。事故後5回目となる作付けにも自信を深める。

 一方、品質が安定し、値ごろ感のある県産米は業務用としては好評価を得ているが、原発事故による負のイメージは確かに残る。

 東京都の大手流通業者の担当者は「小売店には福島県産米を薦めているが、復興キャンペーンと銘打ったイベント以外は売れる保証がない。消費者の放射線への理解は十分でなく、まだ福島県産米の取り扱いを控える小売店は多い」と明かす。

 復興応援をうたいながら、差別の助長につながりかねない事態も起きている。福岡市に本部を置く生活協同組合連合会「グリーンコープ連合」が製作したカタログギフトで、東北6県のうち本県のみを除外し「東北5県」として紹介されていた問題が13日に発覚。同生協連は「福島県の商品と出合う機会がなく、取り扱いが少なかったから」と釈明。今後は"東北6県"と明記し「福島の商品もカタログで案内していきたい」と話す。

 他方、一見、風評が根強いとみられる教育旅行では、県外の学校は必ずしも原発への不安だけで本県を選択肢から外しているわけではない。

 「交通費が何とかなれば福島に戻すことも考えられるのだが...」。震災後、スキー学習の旅行先を猪苗代町から長野県に変えた熊本県のある県立高校の教頭は悩む。高速バスツアーの事故を受けた運転手の労働環境改善の一環で値上げされたバス代は予算を圧迫。別の高校では旅行日程を1日削減したほどだ。

 教育旅行の質も問われている。県内の旅館、ホテル関係者と全国で誘致活動を展開する県観光物産交流協会観光部長の佐藤敬(49)は「福島は教育現場のニーズに応えられているのか。他県に勝る素材がなければ選んでもらえない」と差別化を模索する。(文中敬称略)