線引きが地域を分断 全避難区域、地点設定された南相馬

 
線引きが地域を分断 全避難区域、地点設定された南相馬

南相馬市鹿島区の仮設住宅。線引きで分断された住民は、複雑な思いを抱えながら生活する

 避難区域の設定はこれまで絆を大切に暮らしてきた県民、地域を分断した。南相馬市は小高区全域が警戒区域(20キロ圏)、原町区の大部分が緊急時避難準備区域(20〜30キロ圏)とされた。ほぼ30キロ圏外の鹿島区は無指定。放射線量による旧計画的避難区域、特定避難勧奨地点も含め県内で唯一、原発事故に伴う避難区域、地点が全て設定された。

 複雑な線引きは住民間に感情のもつれをもたらした。自宅が特定避難勧奨地点に指定されている同市原町区の女性(67)は原発事故後、地域に広がる不和を懸念する。同地点は放射線量に応じて世帯ごとに決められ同じ行政区内でも指定の有無が分かれる。女性は月10万円の精神的賠償を受けているが「もらっていない人のことを考えると後ろめたさもある」と打ち明ける。

 「避難にお金も絡み、以前のような地域の交流はなくなった」。女性は家族が震災関連死の認定を受け市から弔慰金を受けたが、ごく一部の知人にしか話していない。「何も悪いことはしていないけれど、これ以上『あの人はお金をもらっている』という目で見られたくない。人間の感情は簡単に割り切れないから」とため息をつく。

 同市の特定避難勧奨地点の解除時期はいまだに示されていないが、女性は、解除されても以前のように交流するのは難しいと考えている。「どれだけの人が戻るか分からないし、一度こじれた感情は修復できないと思う」。さみしそうにつぶやいた。