"放射能から命"守る 健康管理調査・検診「風化させない」

 

 大量の放射性物質が放出された東京電力福島第1原発事故。県民は、事故から3年を迎えようとする今も目に見えない放射線への不安を抱えながら日々を過ごす。県民の健康を長期にわたり見守ることを目的に放射線による健康への影響を調べる県民健康管理調査は、震災と原発事故で生活環境が一変した要因を踏まえ、正確なデータ分析とともに受診率の確保が求められている。また、避難区域などを抱える市町村では、避難生活の長期化を背景に要介護認定を受ける高齢者が増え続け、介護の問題が深刻化している。

 「データ回収」問われる信頼性 

 原発事故発生時の全県民約205万人が対象の県民健康管理調査で、基本調査は個人の行動記録に応じ、原発事故後4カ月間の個人の外部被ばく線量の推計値を把握する唯一の手段だが、個人が記入する問診票は回収率の低迷から抜け出せていない。

 福島医大は昨年11月、記入内容を簡略化した簡易版の導入で「てこ入れ」を図り、昨年12月末現在の回答率は25%とようやく全体の4分の1に届いた。

 未回答者の大半は当時の記憶が薄れつつある中、行動記録を書き込む煩わしさから記入を敬遠しており、未回答者への継続した支援が欠かせない。

 事故当時18歳以下の県民を対象にした甲状腺検査は対象者が20歳になるまでは2年ごと、それ以降は5年ごとに検査を受ける。しかし、時間の経過につれて、対象者が就職や進学などで県内外に分散、検査への関心が低くなる可能性もある。県は、転居先の追跡確認や対象者への働き掛け、身近な医療機関でも受診できるよう検査態勢の拡充を進めることで受診率を高めていきたい考えだ。検討委員会の星北斗座長(県医師会常任理事)は「風化させず、検診を受けてもらい、健康がきちんと守られることが重要だ」と指摘する。

 県民健康管理調査は、県民の不安の高まりを受け、県と福島医大が2011(平成23)年6月に開始した。外部被ばく線量の推計値の把握や、甲状腺がんの早期発見など一定の成果を出す一方、有識者の助言を受ける検討委員会で非公開の「準備会」の開催が発覚、結果データの集計ミスもあり、県民の疑念を招く事態が続いた。

 原発事故に起因する被ばくについては前例のない大規模な調査となる。しかし、県民には「健康管理」という語感から「人体実験の印象を拭えない」と反感があり、県議会も名称の見直しを求めた。県は改称に応じたものの、既に定着していることから「管理」を削り「県民健康調査」と最小限の変更にとどめた。新年度に切り替わる見通し。

 県民が不信感を抱く背景には行政への不信に加え、原発事故直後に国内外の専門家らが研究目的で本県に入り、健康状態のデータを集めようとする動きが相次ぎ、「研究材料にされているのではないか」と厳しい視線を向けていることがある。検査の正確性と透明性を確保して長期にわたり県民の信頼に応えられるかどうかが問われている。

 

 外部被ばく1ミリシーベルト未満66.3%

 福島医大によると、原発事故後4カ月間の外部被ばく線量を推計する基本調査の結果は、昨年12月末現在で放射線業務従事経験者を除く46万408人のうち66.3%の30万5286人が1ミリシーベルト未満だった。地域ごとの最高値は相双の25ミリシーベルトが最も高く、次いで県北11ミリシーベルト、県中といわき5.9ミリシーベルト、会津3.6ミリシーベルト、県南2.6ミリシーベルト、南会津1.6ミリシーベルトだった。

 同大は「100ミリシーベルト以下での明らかな健康への影響は確認されていないことから、4カ月間の外部被ばく線量の推計値ではあるが、健康影響があるとは考えにくい」と説明している。

 

 「18歳以下」甲状腺がん33人

 原発事故当時18歳以下の県民を対象とした甲状腺検査の結果、福島医大が甲状腺がんと診断した人数(昨年12月末現在)は33人、がんの疑いは41人。手術で良性と確認された1人を合わせると、「がん、またはがんの疑い」と診断したのは75人となった。

 事故当時の年齢で最年少は6歳女児。0〜5歳では確認されていない。基本調査で外部被ばく線量の推計値を出した24人のうち最大値は1.8ミリシーベルトで、15人が1ミリシーベルト未満だった。検討委の星北斗座長は「放射線による影響との関係は検証していく必要があるが、これまでの知見からすると、(因果関係があるとは)考えにくい」との見解を示している。