介護問題"深刻化" 増える要介護認定者、スタッフ足りず

 

 双葉郡8町村と飯舘村の要介護認定者(65歳以上の第1号被保険者)は、震災前の2011(平成23)年1月以降、全ての町村で増え続けている。人口が最多の浪江町は今年1月時点で認定者数が1401人に上り、震災前と比べて約1.5倍となった。富岡町が743人で続き、大熊町584人、双葉町510人、飯舘村504人と500人を上回った。

 県は増加要因について「もともと高齢化が進んでいた状況に、震災と原発事故による生活環境の激変が拍車を掛けた」と分析する。浪江町の担当者は「介護保険料に見合ったサービスを考えていかなくてはならないが、全町避難や家族崩壊が進む中、震災前と同水準のサービスを行うのは正直難しい状況」としている。

 「双葉町村人材集まらず」 

 被災地で増加傾向が続く要介護認定者。避難区域などがある双葉郡の町村では、介護スタッフが不足し、高齢者の支援に課題が突き付けられている。

 川内村では、村社会福祉協議会が通所介護と訪問介護を運営。震災前、通所に14人、訪問に9人いた介護スタッフは大幅に減り、通所8人、訪問3人で対応している。同協議会は介護スタッフの募集を続けているが、子育て世代が帰村していないことや県の緊急雇用など仕事の選択肢が広がったことで「希望者がなかなか見つからない」という。

 双葉町の担当者は「要介護認定者数が増加傾向にあることや、町民の避難先が全国に分散している状況は変わらず、避難に伴う新たなニーズも発生しているが、これらに対応するためのスタッフが不足している」と明かす。要介護者への支援では「自前での対応に限界があり、避難先の自治体やサービス事業所に依存せざるを得ない」とする。

 葛尾村でも介護スタッフは不足気味。担当者は「スタッフの不足は全国的な状況。避難自治体の特殊性もスタッフが集まらない要因になっている」と話す。

 広野町では、帰還が進むにつれて介護サービスの利用希望者も増えつつあるが、一方で町内の介護施設のスタッフが不足しており、町の担当者は「近隣のいわき市の施設を紹介することもある」という。4月からは町内の施設2カ所ともスタッフ増員で受け入れ人数を増やす見込みで「希望に沿えるようになるのでは」としている。

 ラジオ体操で元気に予防 

 双葉郡の町村や飯舘村は、要介護者を増やさないために予防事業に力を入れている。飯舘村は、仮設住宅に住む高齢者らの健康維持につなげようと、各仮設住宅で実施する運動教室のほか、日常的に実践できるラジオ体操の普及に努めている。保健師が出演するラジオ体操の動画を作成、村民に配布しているタブレット端末に配信した。このほか、作田美代県ラジオ体操連盟会長の協力で仮設を回り、普及イベントを開催。担当者は「仮設住宅によっては住民が集まってラジオ体操に取り組むなど広がりが出ている」と話している。

 浪江町は、介護教室、認知症予防教室を二本松市の町二本松事務所で年4回実施。「避難先では施設などのインフラやボランティアの受け皿もないので、今後どうしていくかが課題」としている。川内村は、地域住民が高齢者の健康を支援する「健康サポーター」の養成にも重点を置く。担当者は「高齢者が生きがいをつくる方法を地域を巻き込んで考えていくことが必要」と話す。

 会津若松市の仮設住宅集会所で「いきいき教室」を開いている大熊町。昨年から、住民が増えているいわき市でも健康教室を開くようにした。広野町は、運動教室や口腔(こうくう)ケア、栄養教室を町内といわき市で定期的に開催。担当者は「教室に通うことが習慣になって、楽しみにしている人も出てきた」と効果を感じている。

 富岡町は、インストラクターを県内の仮設住宅のある4地区に派遣し、体を動かす場を創出している。葛尾村は、保健師が個別訪問する頻度を増やし、栄養管理などにも取り組む。担当者は「(要介護者の増加は)20年、30年先の状況がいきなり来たような状態だが、少しでも増やさない対策を講じていきたい」と話す。