希望、不安...揺れる心 楢葉町、4月以降「帰町時期」判断

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老舗「武ちゃん食堂」 

慣れ親しんだのれんを前に入居への思いを語る佐藤さん夫妻

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされた住民たちの「全員帰還」を目指してきた国が昨年暮れ、帰還を目指す人だけでなく、帰還しない人の生活再建も支援する現実路線へと大きくかじを切った。放射線の高低、古里の荒廃と復旧、複雑化した影響と見通せない生活設計が避難住民を悩ませる。それでも避難自治体は、古里を取り戻すべく一歩一歩、前進を試みている。

 ほぼ全域が避難指示解除準備区域の楢葉町は、町が4月以降に「帰町時期」の判断を示すため、帰還をめぐる町民の思いは大きく揺れている。

 「本当に分からない」。いわき市の仮設で暮らす無職鈴木一郎さん(80)はつぶやく。自宅は同町下小塙で、近くには山林も多い。すでに環境省の直轄除染は終わったものの、敷地内には毎時1.2マイクロシーベルトを計測する所もあり、「近くの山林の影響かな」と不安を口にする。古里への強い思いとは裏腹に、3年放置せざるを得なかった家屋の傷み、線量の問題が帰還への足かせになっている。鈴木さんは「震災前の楢葉町には戻りたいけど」とした上で、町の将来像について「若い人が帰れるような仕事、住居などが必要ではないか」と指摘した。

 町民の約8割がいわき市で避難生活を送る。中間貯蔵施設など、帰還の判断材料となる課題は現在進行形で状況が変化する。町民からは「町には国、政府の代弁者ではなく、町民の立場に立った施策を推進してほしい」という声も上がっている。

 老舗「武ちゃん食堂」 "やっと一歩"共同店舗への出店、心待ち

 「一日でも早く地元の楢葉町で再開したかった」

 楢葉町は5月末、町内の町役場前の駐車場に4店舗の飲食店などが入居する仮設の共同店舗を開設する。JR竜田駅前の老舗食堂「武ちゃん食堂」も出店予定だ。2代目の佐藤茂樹さん(51)、妻美由紀さん(49)は営業再開の日を心待ちにする。

 震災前は、まさに年中無休で営業した。たくさんの常連客もいた。「出前に1時間かかっても笑顔で待ってくれた。お客さまに支えられて営業できた」と夫妻は声をそろえる。

 原発事故後は、いわき市の借り上げ住宅で生活する。同市での再開も一時考えたが、「古里の楢葉でまず営業しなければ、心の整理がつかない」と茂樹さんは心に決めた。昨年末、町役場から出店の打診を受け「やる」と即決。現在は、営業再開に向けて調味料や麺など業者との交渉を進めている。「やっと一歩踏み出せる。まずは震災前と同じ味を出せるようにしないと」と茂樹さんははにかむ。

 町は立地の良い国道6号沿いに共同店舗を設け、1日数千人とされる福島第1原発の廃炉や、除染の作業員をはじめ、一時帰宅した町民の利便性を高めたい考え。2016(平成28)年3月末までに、恒久の公設店舗を町中心部に開設する予定だ。

 3拠点体制で行政サービス

 楢葉町は、原発事故直後に避難した会津美里町、現在も町民の約8割が避難生活を送るいわき市に役場機能を置き、行政サービスを行っている。4月以降、帰町判断があれば、帰還を支援するため町内への役場機能設置も視野に入れており、3拠点体制をしばらく続ける。

 地域防災の要となる町消防団は、原発事故に伴う避難で実質的な休止状態。しかし、月に1度の車両点検や町内の巡回など自主的な活動は続いており、震災後初めて今年1月に町内で行われた出初め式には、団員の半数となる約100人が参加した。

 帰還が具体的になれば、県から提言を受けた消防団再構築も踏まえ、原発事故前の枠組みにとらわれない、地域の実情に合った在り方を探るとしている。

 避難指示11市町村

 東京電力福島第1原発事故で自治体の全域または一部に避難指示区域を抱えるのは11市町村。それぞれ年間の積算放射線量に応じて政府による区域再編が済んでおり、帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域に分けられている。

 住民の帰還に向け行政が積極的に対策を進めているのは3市町。田村市都路地区は旧警戒区域で初となる避難指示解除が4月1日と目前に迫っている。南相馬市は小高区など避難指示解除準備区域について2016(平成28)年4月を避難指示解除目標に定めた。楢葉町は4月以降、帰還時期を判断する方針だ。一方、大熊、双葉、浪江3町など帰還困難区域を多く抱えた自治体は、住民の帰還意欲が冷え込まないよう、対策に知恵を絞る。

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