健康不安"鈍る決心" 農業者推計で年1ミリシーベルト超

 
「線量高い所...戻っていいのか」

山に囲まれた自宅前の水田で「いずれは帰りたい」と話す菅波勇己さん=川内村

 避難指示解除準備区域で指示解除に向けた取り組みが動き出しているが、原発事故から3年半を迎えた今も、帰還住民の被ばく管理が課題に浮かび上がる。政府は住民帰還を促すため、空間線量で年間追加被ばく線量を推計する従来の手法から、個人線量の実測値を把握して被ばく低減や健康管理を進める方針に転換。帰還判断の参考として推計値を示した。ただ推計値は住民の生活行動により除染の長期目標の年1ミリシーベルトを超える場合もある。新たな方針や推計値について政府の説明が十分になされたとは言い難く、住民の不安を解消するにはなお課題が多い。

 【川内】「線量高い所...戻っていいのか」

 10月1日の避難指示解除が決まった川内村東部の避難指示解除準備区域。菅波勇己さん(75)の自宅裏には深々とした山が迫る。自宅の除染は終わったが周辺には放射線量の高い場所もある。「なんぼ年をとっていてもやっぱり線量は低い方がいい」と話す。

 今は村内の仮設住宅と自宅を行き来する生活。自宅前の水田では今年、コメの実証栽培に取り組み、裏山の畑では野菜やワサビの栽培も始めた。解除後はハナモモなどの栽培にも挑戦するつもりだ。

 政府は4月、帰還住民の生活行動パターンに基づく推計被ばく線量を公表。村の解除準備区域の農業者の場合、個人の追加被ばく線量は年間3.0ミリシーベルトと推計し、政府が長期目標とする1ミリシーベルトを上回った。

 さらに政府は被ばく線量管理について実測値から個人線量を重視する方針に転換。同区域では今月にも追加除染が始まる見通しだが、実施地点の選定に影響が出るとの懸念もある。

 村内で8月17日に開かれた避難指示解除の住民説明会。政府は、追加除染の実施場所を具体的に示さなかった。参加住民からは放射線不安に対する意見も相次いだが、政府は反対を押し切る形で避難指示解除を決定。菅波さんは「国は避難者の声を聞いていない」と感じた。避難指示解除まで1カ月を切った。「いずれは家に帰りたい」と考えているが、いつ戻るかまでは決めていない。