再び遠のく信頼回復 汚染雨水流出、東電いまだ認識甘く

 

 東京電力福島第1原発では、汚染水をめぐるトラブルが絶えない。2月には高濃度の汚染雨水が排水路を通じて海に流出する問題が発覚した。東電は2月24日、2号機の原子炉建屋屋上にたまった汚染雨水が排水路を通じて港湾外に流出していたことを明らかにした。だが、流出の可能性を事前に把握しながら公表せず、具体的な対策も取っていなかった。認識の甘さを再び露呈した。

 排水路の出口付近で採取した水からは最高値で放射性セシウムが1リットル当たり1050ベクレル(昨年5月)、ベータ線を出す放射性物質が同1500ベクレル(同8月)を検出。敷地内の地下水が汚染される前にくみ上げて海に流す「地下水バイパス計画」の排水基準、セシウム1リットル当たり1ベクレル未満、ベータ線を出す放射性物質の同5ベクレル未満を大きく上回った。

 東電は「優先順位が低い情報と捉えていた」と不備を認める。排水路は、構内に降った雨水を港湾外に流すため、原発事故前からあった。このため、原発事故直後から港湾外への流出を認識していた可能性がある。また、22日には別の排水路で汚染水が港湾内に流れた。東電はいずれの問題も「海水の放射性物質濃度に目立った変動はない」としているが、事態は深刻だ。建屋周辺の井戸「サブドレン」などからくみ上げた地下水を浄化して排出する計画について漁業者に理解を求めているが、問題を公表しなかった東電の姿勢に漁業者は強く反発。信頼回復への道のりは再び遠のいた。

 「不信感しかなくなる」 漁業者ら不安と憤り 

 「これ以上状況が悪化すれば、漁業を辞めなければならない時が来てしまう」。相馬双葉漁協原釜支所に所属する、小型漁船盛運丸(せいうんまる)の船頭今野昌功(まさのり)さん(35)は、サブドレン計画の浮上に続いて発覚した汚染雨水漏れなど、相次ぐ福島第1原発の汚染水問題に不安を募らせる。

 国と東京電力はこれまで、漁業者を対象に計画についての説明会を重ねてきた。地下水をくみ上げて浄化して海へ流す計画に「容認やむなし」と理解が進んでいたさなかに、汚染雨水の問題が発覚した。今野さんは、「計画には反対だが、渋々了承するしかないと思っていた。ここにきて問題を隠されると、不信感しかなくなる」と憤る。

 相馬市原釜の自宅は津波で流された。盛運丸だけは何とか無事だったが、震災直後は「漁業どころではなかった」という。その後、試験操業が始まり漁を再開した。しかし仲買業者の廃業などにより市場で扱える魚の量は制限され、漁獲量も減った。若手漁業者はもてあました時間をほかの仕事に充てているのが実情だ。

 「ただでさえ、漁に出られる時間は少なくなった。サブドレン計画や汚染雨水の問題が風評被害を悪化させれば、みんな漁業から離れてしまう」と危惧する。「計画に反対ばかりしていても、どうしようもないことぐらいは分かっている。だからこそ、国や東電には漁業者に対して誠心誠意、対応してほしい」。漁業者の悲痛な真情を吐露する。