「ふたば未来」生徒たちの挑戦続く ふるさと創造...地域と共に

 
復興を担う人材育成に向けて「未来創造型」教育が進められているふたば未来学園(写真中央、奥は広野火力発電所)

 東京電力福島第1原発事故からの住民帰還を目指す双葉郡の教育復興の核として期待された、広野町の県立中高一貫校「ふたば未来学園高」が開校から間もなく1年となる。復興を担う人材育成に向けて始まった「未来創造型」教育。従来の高校教育の枠を超え、生徒たちの挑戦が続いている。

 昨年4月に開校した同校には第1期生152人が入学。静岡県の三島長陵高で学ぶJFAアカデミー福島と猪苗代高で学ぶバドミントン部を除いた本校で学ぶ生徒のうち、約8割は双葉郡の出身者だ。

 入学直後から主体性や表現力などを育む目的で、劇作家の平田オリザ氏を講師に演劇制作の特別授業が始まった。地域住民の声を聞き、震災と原発事故後に地域が抱えている課題を生徒が自ら演じ、表現した。

 指導した平田氏は、同校の教育を支援する「ふたばの教育復興応援団」の一員。応援団には平田氏以外にも各界著名人が参加し、宇宙飛行士の山崎直子さんや校歌をプロデュースした秋元康さんも名を連ねる。同校教育に積極的に関わり、生徒の成長を後押しする。

 同校の特色でもあり郡内小中学校との教育連携の柱でもある「ふるさと創造学」は、さまざまなテーマや方法で応援団の協力も受けて生徒が地域に関わり、復興の課題解決に向けたアイデアを生み出している。

 生徒がチェルノブイリ原発事故の被災地ベラルーシやタイ、ドイツを訪問するなど、スーパーグローバルハイスクールとしての取り組みもスタート。サッカーや野球、レスリングなどの運動部も始動し、1年生のみのハンディも乗り越えて公式戦にも出場した。

 一方で、志願者全員の入学を受け入れたことによる学力格差の解消や郡内中学校との連携教育をどう深めていくかなど、今後の課題も多い。同校の丹野純一校長(49)は「まずは原発事故を乗り越えた子どもたちが一歩を踏み出し、未来創造に向けた学習に挑んだことに意義がある」と振り返る。その上で「今後は習熟度別授業など、より地に足を着けた学習も重視しながら、挑戦を続けていきたい」と語った。

 「自分の視野、広げてくれた」 富岡から避難の高橋涼花さん

 「1期生って格好いいかも」

 原発事故で富岡町から避難した。須賀川市内の中学校を卒業し、進学先に選んだのは、古里の双葉郡にできるという、新しい高校だった。

 避難先では慣れない生活が続いた。新しい高校を選べば、親元を離れて初めての寮生活となる。不安はあったが、双子の姉と一緒に入学した。被災地出身の新しい友達の存在もあり、高校生活にはすぐになじめた。

 学校では、地域の課題がテーマの演劇指導や、著名人によるユニークな授業を体験した。その中で思いがけず地域の人たちと出会い、話をする機会が増えた。その経験が「自分の視野を広げてくれた」と話す。

 自然と、学校の周辺地域への関心も高まった。昨年は地域を盛り上げようと、一つのアイデアをまとめ、国の「地方創生☆政策アイデアコンテスト」に応募した。

 考えたのは、地元の商店街のこと。学校の近くには、大手スーパーがオープンする予定だ。「放課後などに友達と買い物に出掛けた、なじみの地元の店が廃れてしまわないか」。対応策として、自分たちが店と協力して特産品を考え、地元商店街と大手スーパーの共存を探った。

 コンテストでは、全国から集まったアイデアから最終の10点に選ばれ入賞した。「自分の力はどこまで通用するだろう」。最終審査の発表では、緊張よりもわくわくした気持ちだった。「このアイデアが双葉郡の復興に少しでも役立てばうれしいな」と話す。

 1月にはタイでの研修も経験。「どの1年生よりも忙しかったと思うけど、この学校だからできたことばかりだった」と今は思う。来月には後輩も入学し、2年生としての生活が始まる。「福島県以外の人にもたくさん会い、意見を交換して成長したい」。それが今の目標だ。

 【避難区域12市町村】 児童・生徒数7割減

 東京電力福島第1原発事故で避難区域となった県内の12市町村では、移転した小中学校に通う児童・生徒数が、事故前に比べ約7割減少した。

 12市町村は南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、飯舘村、川俣町、葛尾村、田村市、川内村で、原発事故で避難区域となり、一部は解除された。

 各教育委員会によると、2010年度は1万2424人だったが、15年度は3687人となった。減少幅が最も大きい自治体は富岡町で、1487人から19人(1.3%)に減った。浪江町の1773人から36人(2.0%)、双葉町の551人から20人(3.6%)と続く。

 避難区域内にあった小学校は36校、中学校は19校の計55校で、浪江町の小中6校が休校し、南相馬市の小学校1校が統合した。避難指示が14年に解除された田村市都路地区では、少子化と避難の影響で児童数が約半数となったため、古道、岩井沢両小学校が17年4月にも統合される見通し。