『汚染水と5年の闘い』 福島第1原発、「凍土壁」効果は不透明

 
東京電力福島第1原発の汚染水タンク群=2月17日

 東日本大震災に伴う津波で全ての電源を失った福島第1原発1~5号機。5年後、空から眺めた東京電力福島第1原発は、汚染水が入ったタンクで埋め尽くされている。この5年間は汚染水との闘いに費やされてきた。敷地内の作業環境は格段に改善されたものの、廃炉作業で最難関となる溶融燃料(デブリ)の取り出しに向けた作業はいまだ建屋内の調査段階。福島第1原発の現状は、廃炉がいかに困難な作業なのかを物語る。

 2020(平成32)年内に建屋地下にたまる高濃度汚染水をゼロにする目標を掲げる東電は、多重の対策で汚染水発生量の低減を図っている。早ければ今月中にも、地中に氷の壁を造り地下水の流れを遮断する「凍土遮水壁」の運用が始まるが、目に見えない地下水の流れを計画通り管理できるかは不透明だ。

 凍土壁の効果で建屋周辺の地下水位が急激に低下すると、建屋地下にたまっている高濃度汚染水が外部に流出する恐れがある。このため東電は地下水が流れ込む建屋山側からとしていた当初の凍結手順を、海側と山側の一部からの段階的な凍結に方針転換した。

 地下水位が急激に低下した場合、東電は井戸から水を注入し水位回復を図るほか、建屋内の汚染水を抜き取る対策を準備している。

 昨年9月には建屋周辺の井戸から汚染地下水をくみ上げ、浄化後に港湾内に放出する「サブドレン計画」の運用が始まり、建屋への地下水流入量は半減した。港湾内に鋼管を打ち込んで壁を造り汚染地下水の流出を防ぐ「海側遮水壁」は昨年10月に完成し、港湾内の水質は改善傾向にある。

 しかし海側壁の完成で護岸の地下水位が上昇。トリチウム(三重水素)濃度が高い汚染地下水を建屋地下に移送せざるを得ず、新たに汚染水が発生する問題が続いている。

 現在の汚染水発生量は1日当たり約500トン。内訳は地下水流入分が約150トン、護岸から移送した地下水分が約350トンとなっている。
 また2月25日現在、1~4号機などの建屋内には計約8万1000トンの高濃度汚染水がたまっている。

 保管続く「トリチウム水」

 トリチウム(三重水素)以外の62種類の放射性物質を除去できる多核種除去設備(ALPS)で処理された汚染水の総量は2月25日現在、約61万トンに上る。ALPSで再処理が必要な別の汚染水は約17万トンあり、計80万トン近くが地上タンクに保管されている。トリチウム水の取り扱いはまだ決まっておらず、地上タンクでの保管が続いている。

 トリチウム水は正常に運転している原発からも海洋に放出されている。東電によると福島第1原発からは2009(平成21)年度の1年間に2兆ベクレルが放出されていた。

 しかし本格的な漁業再開を模索する県漁連などは、新たな風評を招く恐れがあるトリチウム水の放出を認めていない。政府は地層への注入や水蒸気放出などさまざまな処分方法を議論している。

 東電は政府の検討結果を待つとともに、地元の意見を聞いて判断するとの慎重な姿勢だ。

 一方、政府の結論も出ない中、原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)はトリチウム水を水で希釈して海洋放出すべきだとの主張を続けている。