「甲状腺がん」検証続く 検討委、放射線の影響「考えにくい」

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 東京電力福島第1原発事故から5年を迎える県内では、放射線の影響についての検証が続けられている。甲状腺検査は2巡目となり、今後も継続的な検査が行われる。肥満や生活習慣病など事故後の県民の健康指標の悪化も大きな課題で、県は運動などを促すモデル事業を展開して改善を図っている。

 東京電力福島第1原発事故の健康影響を調べる県民健康調査のうち、事故発生時18歳以下の県民を対象に県が行っている甲状腺検査では、2011(平成23)~13年度の1巡目検査で100人、14~15年度の2巡目検査で16人が昨年末現在で甲状腺がんと確定している。「がんの疑い」は1巡目15人、2巡目35人。県民健康調査検討委員会は放射線の影響について「考えにくい」と評価している。

 検討委はこう評価する根拠として、1986年にウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故と比べて被ばく線量がはるかに少ないこと、チェルノブイリの事故では4~5年後に幼い子どもの甲状腺がんが急増したのに対し、本県では、事故からがん発見までの期間がおおむね1~4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見がないこと、避難区域となった13市町、浜通り、中通り、会津の地域別で発見率に大きな差がないことなどを挙げている。

 一般的には、10代の甲状腺がんは100万人に1~9人程度といわれる。本県では、1巡目検査を受けた約30万人のうち100人ががんと確定し、おおよそ3000人に1人の割合だが、自覚症状のない人を網羅的に検査した今回のような調査は前例がなく、比較が難しいとされている。

 検討委の中間取りまとめ案では、死に結び付かないがんを網羅的な検査により多数診断している可能性があり「不要だったかもしれない甲状腺がんの診断・治療のリスク負担をもたらしている」と分析。一方、将来がんが発生する可能性は否定できず、検査を受けたいという県民も多いことなどから「検査を継続していくべき」と明記されている。またその際、検査による不利益や、見つかったがんが必ずしも生命に影響を与えるわけではないことを県民に説明する必要性を指摘している。

 甲状腺検査では、2巡目検査でがんや「がんの疑い」とされた51人のうち47人は1巡目検査で「問題ない」と診断された。このことについて検討委では、1巡目検査で見つからなかったがんが2巡目で見つかった可能性などが指摘されている。検討委は「放射線影響は考えにくい」とする従来の見解を変えていない。

 「調査データ」外部にも提供へ

 県民健康調査検討委は、これまでの調査で得た結果などを、調査を行っている福島医大以外の研究機関や専門家に提供するための体制づくりを進めている。

 同調査で行われている甲状腺検査や健康診査、妊産婦調査、こころの健康度・生活習慣調査などの結果については、これまで外部に対する二次利用を認めていなかった。

 データをさまざまな研究に活用してもらうことで、県民の健康増進に役立てる。現在は個人情報などの専門家らによる検討部会を設置する準備が進められている。

 基本調査の線量、全県状況に反映

 県民健康調査検討委は、同調査の基本調査で調べている原発事故後4カ月間の外部被ばく線量について、県民に回答を求めるのをやめ、自分の被ばく線量を知りたいという県民に対して窓口を用意する方針だ。

 基本調査の問診票の回答率は昨年末現在で27.4%にとどまる。回答率が伸び悩んでいる状況を受け、福島医大は未回答者約1000人に対する聞き取り調査を行った。その結果、基本調査による線量と聞き取り調査で得られた線量の平均値に差がなく、基本調査に基づきこれまで公表している線量分布が県民全体の状況を正しく反映していると判断した。

 「発症調査」研究進む 福島医大・法医学講座

 福島医大医学部の法医学講座は本年度から、警察から依頼を受けた「法医解剖」の際、亡くなった人が甲状腺がんを発症していたかどうかを調べる研究を進めている。

 研究では、遺体解剖の一環として甲状腺を摘出し、一定の厚さに切って標本を作り、肉眼や顕微鏡でがんなど異常がないか調べる。

 甲状腺がんは一般的に発症しても生存率が高く、発症してもそれが発見されないまま他の死因で死亡するケースも多いことが知られている。つまり、甲状腺がんの実際の発症率は、一般的検査で見つかる数値よりも高いことが想定される。

 県は甲状腺検査を行っているが、これまで国内では大人を含めた甲状腺についての精度の高い集団検査が行われた例がないため、発症頻度の比較対象がない。将来的に同大は、各医療機関の協力で県外でも発症頻度を調査し地域ごとに比べる。こうした研究を通じて得られる実際の発症頻度を、県内で行われている甲状腺検査のがん発症率などと比較することにより、原発事故の影響の有無に関する手掛かりが得られると期待される。

 帰還へ医療体制拡充 楢葉の復興診療所

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域の医療再生拠点として、楢葉町北田に1月31日、県立大野病院付属ふたば復興診療所(写真、愛称・ふたばリカーレ)が開所し、2月1日に診療が始まった。開所によって、住民の帰還に向けた生活環境整備、福島第1原発廃炉などに携わる作業員の医療体制拡充につながることが期待されている。

 県によると、開所から1カ月間に診察した患者数は延べ393人だった。内訳は内科235人、整形外科158人で、1日当たりでは内科11.8人、整形外科13.2人。

 患者の地域別でみると、楢葉町民167人(42%)、同町以外の双葉郡112人(29%)、同郡以外の県内34人(9%)、県外80人(20%)だった。

 平日の外来診療のみで、整形外科を担当する所長の伊藤博元・日本医大名誉教授、福島医大から派遣される循環器や消化器、腎臓、神経内科、呼吸器などの医師が交代で内科の診療に当たる。看護師4人らスタッフ計9人は常勤。