避難指示解除...『残る課題』 住民が古里に戻り暮らすためには

 

 政府が帰還困難区域を除く区域の避難指示解除時期としている2017(平成29)年3月まであと半年となった。帰還困難区域についても5年後の解除という方向性が示された。ただ、避難指示解除後に住民が古里に戻って暮らすには課題が残る。

 中野地区に働く拠点

 【双葉】避難指示解除準備区域で、町の4%の面積に当たる町北部の両竹、浜野地区約200ヘクタールで除染が完了。津波被害で住宅は甚大な被害を受けているほか水道や電気などのインフラ整備もこれからで町は来年3月末での同区域の避難指示解除は難しいと見込む。
 町は3月末、浜野地区内の中野地区に働く拠点として「復興産業拠点」を整備する計画を策定。民間企業向けの貸事業所や、就業者の生活支援サービスを提供する産業交流センターの整備などを予定する。
 計画では両竹、浜野地区がある沿岸部の海岸堤防工事が完了する2018(平成30)年ごろに、同拠点で企業が活動できるよう整備を進める予定。町内にわずかでも町民が戻るのは、早くてそのころの見通しだ。

 「追加除染」求める方針

 【富岡】8月7日まで開いた町政懇談会で、町民からは「放射線について不安を感じている」との声が多く上がった。このため、町は政府に継続して追加除染などを求める考え。
 また、「避難指示が解除されたら今受けている支援がなくなるのではないか」と不安に思う町民も多い。政府は「機械的に支援を打ち切ることはない」としているが、「政府から(方針転換して)いつ支援を切られるか」との不安が根強いという。
 避難指示が解除された場合、町の幹部職員は「町民個々の事情があり、他市町村と同様に解除直後に多くの町民は帰らない」とみている。帰還は徐々に進むことを見込んでいるため「多くの町民が一度に帰還する時期はないのではないか」としている。

 まずは町役場が帰還

 【大熊】町復興計画では2018(平成30)年度までに、町内の大川原地区に住宅や商業施設などを集約した復興拠点を整備するとしており、町は来年3月以降も居住制限、避難指示解除準備の両区域の避難指示を継続させる方針だ。解除時期の見通しは立っていないが、町は「町内の復興拠点に役場が戻ってから、住民を迎え入れる形にしたい」と考えている。ただ、農村地帯にゼロから街をつくるため、町は「医療機関や商業施設など暮らしに必要な全ての施設をつくる。課題は山積だ」としている。
 町の一般会計9月補正予算案には復興拠点整備に向けた用地購入費や整備基金費を計上。町幹部は「町民が『町に帰還してもいい』と思える復興拠点をつくる」と話す。

 商店や診療所「未再開」

 【葛尾】6月12日に居住制限、避難指示解除準備両区域の避難指示が解除された。村内では食料品を販売する商店や内科診療所が再開しておらず、住民帰還の課題となっている。
 また、村は三春町に開設した村立小・中学校を2017(平成29)年4月に村に戻したい計画だ。しかし、村が保護者に行ったアンケートでは、4月に再開した場合、村の学校に通うとしたのは10人以下だった。
 解除後に帰還した住民は9月1日現在で85人。住民登録者1338人(6月13日以降の転入者を除く)の6.4%にとどまっている。ただ、村内の被災家屋の解体が17年3月までに完了する見通しのため、村の担当者は「住宅再建が終われば、徐々に戻る人が増えるのではないか」とみている。

 「常磐線」本数増に期待

 【南相馬】避難指示が解除された小高区と原町区の一部で実際に居住している世帯と住民の数は、8月26日現在で合わせて447世帯938人とみられる。市内の帰還困難区域は1世帯2人。
 避難指示解除前から、住民からは生活インフラや交通インフラの復旧・拡充を求める声が数多く上がっていた。市の担当者は「常磐線の再開やシャトルバスの運行、仮設商店の開設など対応してきた」と説明する。今後は小高区で10月以降にコンビニが営業を再開する。また、来年4月に同区で小中高が再開することから、常磐線の本数も増加することが期待されている。担当者は「新たに出てくる課題を解決していくことが重要だ」と強調する。

 特例宿泊対象の2%

 【浪江】政府は、除染で放射線量が下がり、上下水道などの公共設備や防犯上も必要な体制を確保できるとして9月1日から特例宿泊(26日まで)に踏み切ったが、申請したのは8月31日時点で126世帯307人。対象人数の約2%にとどまる。
 町は帰還を見据えて施設整備などを進めており、帰還後の買い物などに不便を来さないよう、町役場隣接地に仮設商業施設を整備する。生鮮食品や弁当の店、ホームセンター、喫茶店など10店舗が出店する。
 また、小学校と中学校の機能を持たせる浪江東中の改修、認定こども園の整備、町地域スポーツセンターの改修、浪江診療所の整備など帰還に向けた動きは進んでいるが、住民の帰還が進むかどうかは不透明だ。

 買い物環境は整わず

 【川俣】山木屋地区について、政府は2017(平成29)年3月末の避難指示解除の方針を示している。食堂が1店舗オープンしているが、買い物環境は整っているとは言えない。
 町は国道114号沿いに復興拠点施設として商業施設を来年5月ごろにオープンする予定。日用品店や食堂、情報交流スペースなどを設ける。住民が集まるコミュニティー施設としての期待も大きい。町は臨時職員を雇用するか、業者への業務委託を想定し、運営に乗り出す方針を固めている。
 避難指示解除直後に帰還する人は少数とみられ、高齢者が中心になる見込み。昨年8月末から準備宿泊を実施しているが、本格的に準備宿泊を利用している住民はトルコギキョウ栽培に取り組む人らが中心だ。

 「小売店」コンビニのみ

 【飯舘】帰還困難区域を除く全域が、2017(平成29)年3月31日に避難指示解除される。村内にある小売店はセブン―イレブン1店のみ。解除後に課題となるのは買い物をできる小売店や飲食店がない点だ。
 宅配事業もあるが、買い物をする場合は隣接する川俣町や南相馬市に行かなければならない。食料品の確保に苦労する点だけをとっても避難指示解除直後に帰還する人は少数で、高齢者が中心となる見通し。本格帰還のタイミングは個人個人によって違うとみられる。「村内で仕事をする」など村に戻らなければならない特段の事情が発生しない限り、多くの村民はすぐには帰還しない可能性がある。村内での営農再開なども帰還の一つの理由と考えられる。

 「戻る」は5割程度 復興庁調査

 復興庁などが東京電力福島第1原発事故の避難区域を対象に実施した住民の意向調査では、既に避難指示が解除された地域に帰還したいと考えている人は4~5割程度にとどまる。
 田村市都路地区では、帰還の意向がある人は2015年10月の調査で51.5%に上った。川内村は40.6%(15年12月)、楢葉町は50.7%(16年1月)、葛尾村は48.5%(15年10~11月)、南相馬市は55.2%(14年6~8月)だった。過去の調査と比べて、川内村で2.3ポイント減少した以外は帰還したいと答えた人がいずれも増加した。