【起き上がり小法師】〔相馬・ヘアスタジオタチヤ〕前だけ見据え店再建

 
震災から約1年で店を再建した立谷さん(左)

 相馬市の理容師立谷幸一さん(63)は、東日本大震災の津波で1975(昭和50)年開業の同市原釜の店舗兼自宅を失った。震災翌日に店の流失を知って「ただあぜんとするだけだった」が、「いつまでも引きずっていられない」と翌年3月、市内の内陸部に店を再建した。今でも8割は昔なじみの客。「震災でも切れない絆に感謝だね」とはにかむ。

 津波に東京電力福島第1原発事故が重なり、一時は福島市の友人宅に身を寄せた。2011年6月には相馬市の仮設住宅に入居。店舗の再建に向けて準備に取りかかった。「自然災害が起きるのは仕方ない。ただ仕事がなければ生きてはいけない」。被災の不遇を呪わず、前だけを見据えた。

 店は長男で理容師の陽一郎さん(38)に引き継ぐ。若い世代を意識し、店名はそれまでの「理容 たちや」から「ヘアスタジオ タチヤ」に変えた。

 行政による津波被災への支援メニューは乏しく、立谷さんは店の再建で多額の借金を背負った。「それも仕方がないこと。こういう性格だから早く立ち直れたのかな」。どこまでも気丈だが、津波被災者からの要望などに対する行政のスピード感に不満を感じている。

 震災を機に「人とのつながりの大切さが身に染みた」と立谷さん。追悼行事なども積極的に企画し、市民の心の復興に貢献している。同店の営業時間は午前8時30分~午後7時。月曜日と第1火曜日、第3日曜日定休。