【起き上がり小法師】〔浪江・食事処いふ〕親子で居酒屋再出発

 
「知り合いに会えるほっとする場所に」と話す店主の新妻さん(右)と長男泰朋さん

 東京電力福島第1原発事故に伴い一部の避難指示が3月末に解除された浪江町で5月20日、町民に愛されていた居酒屋「食事処いふ」が営業を再開した。営業再開に合わせ、併設する民宿「新妻荘」もオープン。店主の新妻泰(やすし)さん(57)は「店に来れば知り合いに会える、ほっとする場所にしたい」と、故郷での新たな船出に期待を膨らませる。

 新妻さんは東京の飲食店で働いた後、地元に戻り、姉妹が経営していた喫茶店「イフ」を改装して1981(昭和56)年に居酒屋を始めた。「将来にはいろんな可能性がある」との思いで名付けられた店名はそのまま引き継いだ。請戸漁港で水揚げされた新鮮な魚介類を提供する店として町内外から人気を集めた。

 しかし、震災と原発事故が店の運命を大きく変えた。県内外で避難生活を送る中、かつての常連客からの励ましの声が新妻さんの再起を後押しした。また、都内で働いていた時に生まれた長男泰朋(やすとも)さん(30)の決意も大きかった。「自分の故郷は浪江だと思っている。町民と一緒に復興に貢献したい」。泰朋さんは都内の飲食店を辞め、父との再出発を決めた。

 町内にまだスーパーなどの商業施設がなく、料理で使う調味料や道具などは南相馬市原町区のスーパーで調達しなければならない。不便さは感じるが「酔っ払ったお客さんの声が店内に響くのはいいね」と笑顔で厨房(ちゅうぼう)に立つ。

 コンセプトは震災前と変わらず「飲んでそのまま泊まれる店」。宿泊は当面、一時帰宅した町民限定で受け付ける。営業時間は午後3時~午後11時。不定休で、予約が必要。予約や営業日の問い合わせは同店へ。