遠藤さん「歌える憩いの場」 カラオケサロン・ミュージックサライ

 
「酒を飲んで歌える憩いの場になれば」と話す遠藤さん=富岡町・ミュージックサライ

 木のぬくもりがあふれる店内で、客が談笑しながら酒を酌み交わし、代わる代わるマイクを握る。富岡町のカラオケサロン「ミュージックサライ」は町内で数少ない夜の社交場として、帰還町民や復興事業の作業員に憩いのひとときを提供している。

 震災、原発事故に伴い富岡町から郡山市に避難した遠藤武さん(75)が昨年7月に店をオープンした。遠藤さんは同市でマンションを購入し晩年を送ろうかと考えていたが、解体され、更地となった自宅跡を見た瞬間、古里を失うさみしさと悔しさが胸に込み上げてきたという。

 「この場所でもう一度頑張ろう」と決意し、更地に自宅を再建。同市の仮設住宅で自治会長を務めていた際にカラオケやダンスの交流会を開催してきた経験を古里でも生かそうと、自宅の隣に店舗を構えた。

 店は予約が入った時など不定期営業だが、「夜の楽しみができた」と利用客に好評だ。遠藤さんは「特に若い人はカラオケをどんどん歌い、気持ちをリフレッシュしているようだ」と笑顔を見せる。町は2017年4月の帰還困難区域を除く避難指示の解除から1年9カ月が過ぎ、人口約1万3000人のうち約830人が戻った。遠藤さんは「少しずつでも住民が古里に戻ってきている。被災地で働く人と一緒に酒を飲んで歌える憩いの場として、コミュニティー再生の役に立てれば」と誓う。