にぎわう海...取り戻すための『夏』 19年夏・3海水浴場が再開

 

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から9度目の夏を迎える今年、釣師浜(新地町)北泉(南相馬市)久之浜・波立(いわき市)の3海水浴場が9年ぶりに再開する。関係者は期待に胸を膨らませる一方、海水浴客の入り込みには不安を抱える。「もう一度、海へ」。にぎわいを取り戻すための夏が始まる。

 子どもたちに楽しい思い出を 浜野さんが海の家設置

 【新地の釣師浜】「誰もやらないなら俺がやる。子どもたちに海で楽しい思い出をつくってほしい」。9年ぶりの海開きを20日に控える新地町の釣師浜海水浴場で、同町の建設業浜野伸也さん(34)が13日から、同海水浴場唯一となる海の家を開く。
 「海って入るのにいくらかかるの」。昨年、海を訪れた際、息子の友人の中学生の言葉に衝撃を受けた。「子どもが海を身近に感じなくなっている」。震災前に4軒程度あった海の家は、以前の設置者が亡くなるなど存続の危機に陥っていた。そんな時に受けた、海の家設置の誘い。「新地のために何かやりたい」。町商工会青年部の活動で社会貢献の大切さを知り、抱いていた思いが後押しした。
 「海水浴場で何も買えないのは絶対にさみしい」「とにかく楽しい海の家を」。海の家では飲食物販売のほか、周辺の海水浴場にはないバーベキューサイトを売りにするつもりだ。21日にはウオーターサバイバルゲームを開くなど、期間中の日曜を中心に、子ども向けのイベントを計画している。
 一方、海水浴客の入り込みに対する懸念は残る。町は8000人以上の来場を目標とし、8月3日には恒例イベント「遊海(ゆかい)しんち」を復活させるなどして誘客を図る。「不安はあるが、一人でも多く来てもらうことに意味がある」。福岡県出身で震災後、結婚を機に同町に移り住んだ浜野さんが、新地の海の魅力を発信していく。

 地元の思い、協力のおかげ 住民が警備やトイレ清掃

 【いわきの久之浜・波立】いわき市の久之浜・波立(はったち)海水浴場は13日、待望の再開を果たす。「海水浴客が戻ってくるか正直分からない。でも、できることをやる」。久之浜・大久観光協力会の吉原二六会長(79)は決意をにじませる。
 海面に浮かぶ弁天島と鳥居で有名な波立海岸は、初日の出を拝める海水浴場として人気で、2010(平成22)年には約1万6300人が訪れた。吉原さんは「多くの海水浴客でにぎわい、活気にあふれていた」と当時を振り返る。
 「なんとか、地元の海岸を回復させたい」。同協力会に所属する地元漁協やJA関係者らが震災後も海岸を巡回、警備や清掃を続け、きれいな海岸を守ってきた。「再開できるきっかけの一つは、地元住民が海水浴場の運営に協力してくれたから」。再開後は会員らが警備活動やトイレの清掃などを担う予定だ。
 「海水浴場を再開させて古里を元気づけたい」と吉原さん。海岸を歩くと、波に打ち上がったカニやナマコがいた。「豊かな海。この海岸を楽しんでもらいたい」。特別な夏に期待を寄せた。

 市民が海で過ごす時間増やす サーフスポット一丸盛り上げ

 【南相馬の北泉】国内有数のサーフスポットとして知られる南相馬市原町区の北泉海水浴場。20日に迎える9年ぶりの再開に向け、市内の各団体が海開きイベントの準備を進めている。
 市民有志でつくる「海のまちづくり実行委員会」は、同海水浴場で花火の打ち上げやサーフィン教室などを計画する。室原真二代表(51)は「市民にもう一度、海に興味を持ってもらえるよう盛り上げ、南相馬の人々が海で過ごす時間を増やしたい」と意気込む。
 市によると、同海水浴場には震災前の2010(平成22)年に約8万4000人が来場。今年は約2万5000人を見込む。だが、レジャーの多様化や紫外線の回避などで海水浴は全国的に下火。また震災後、本県沿岸部では巨大な防潮堤が建設され、海沿いからも海が見えないなど、市民と海の距離が離れる"海離れ"も進んだのが現状だ。誘客に向け、市の担当者は「各団体と連携し、あらゆる手段で広報したい」としている。