【震災5年インタビュー】諏訪中央病院名誉院長・鎌田實氏 人と人、つなぐ復興を

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 かまた・みのる 東京都出身。東京医科歯科大医学部卒。長野県・諏訪中央病院で「健康づくり運動」を進めた。現在は名誉院長。チェルノブイリ原発事故や福島第1原発事故の被災者支援、イラクの難民支援にも尽力する。67歳。

 「識者に聞く」の2回目は、諏訪中央病院(長野県)の名誉院長で作家の鎌田實氏。人と人をつなぐ心の復興や健康づくりの大切さについて語ってもらった。(聞き手・社長・編集主幹 五阿弥宏安)

 ―今の福島は、復興が進んだところと進んでいないところが「まだら模様」だと感じる。東日本大震災の直後から南相馬市などで被災者支援を続けている立場から、震災と原発事故から5年の福島の歩みをどう見ている。
 「5年前、福島の人たちは優しく思いやりがあり、避難所で仲良く支え合っていた。みんなが一緒のときは耐えられる。しかし、5年たった今、福島の復興はまさにまだら模様だ。仮設住宅を出た人も残っている人も未来が見えず、つらく寂しい思いをしている。特に原発事故の賠償金が要因となり、復興格差が起きている。建物の復興も必要だが、人間と人間の関係を復興させなければならない。福島は着実に復興しているが、裏に見え隠れする人間の分断をどう乗り越えていくか。現実の生活で家族が別れても、どうやって心でつながり続けるか。これからが大きな勝負になる」

 ―県内では震災後、子どもの肥満や成人の心筋梗塞の患者が増えており、健康状態の悪化が懸念されている。
 「家族や古里など大切なものを失った悲しみ、賠償の格差がストレスとなっている。ストレスが加わると交感神経が過緊張の状態となり、血管が収縮して循環が悪くなる。血圧が上がり、脳梗塞や心筋梗塞、脳血管性の認知症の原因となっていく。とりわけ心筋梗塞については死亡率が全国ワースト1と深刻な状況だ。額に汗して働くことでストレスを解消していた代わりに、飲酒などがストレス解消法となり、心筋梗塞のリスクを高めている」

 助ける側に立つ喜び

 ―県内には放射線とは違うレベルでの健康問題がある。東北は震災前から健康指数が良くなかったが、福島は野菜が豊富に採れるのに、なぜだろう。県民の健康状態の悪化を食い止めるには、どうすればいいか。
 「健康づくりには(1)野菜摂取量を増やす(2)減塩(3)歩く(4)生きがいを持つ(5)助ける側に立つ―の五つが大切と提言したい。野菜をたくさん食べることは健康の大きな源だ。健康長寿日本一の長野県は野菜摂取量もトップ、次に摂取量が多い島根県は心筋梗塞の死亡率が日本一低い。市場の野菜は今まで通り徹底的に測定すること。自分の畑で作った野菜も年数回は放射性物質の測定所で調べる。放射能の見える化を徹底し、安全と分かったら、しっかり食べる。サラダだけでなく温野菜や干し野菜、野菜ジュース、具だくさんのみそ汁にして食べる量を増やす工夫も必要だ。家に閉じこもらず、歩いて体を動かせばストレス解消になる。生きがいを見つけ、農業をやり直したり、趣味を楽しんだり、ボランティアに参加するのもいい。応援されるより応援する方が元気になる。誰かのために何かをする喜びが人を元気にする」

 「被ばく検査」続けるべき

 ―風評被害は根強く、農業や観光など幅広い分野に影響している。県内の放射線は一部を除いてほとんど元に戻っているのに、東京、大阪、九州、海外と離れれば離れるほど風評は強く、「3・11」直後から福島に対する見方が変わっていない。どう対応するべきか。
 「チェルノブイリ原発事故のあったウクライナでは放射線による子どもの健康影響に懐疑的な医師でさえ、追加被ばく量年間1ミリシーベルト以下の目標を守っている。福島県ではそのレベル以下に下がっている地域が多くなったが、まだ超えている地域もある。高いところは数値をきちんと公表しながら、除染を丁寧に進めてほしい。それが風評払拭(ふっしょく)につながる。体内(内部)被ばく検査で異常値が出ていないため、県民が検査を受けなくなりだしているのは問題だ。風評に抵抗していくにはデータを出し続けることが大事だ。子どもが将来、県外の人と結婚する際に『福島の人だから...』と言わせないために、内部被ばく量がずっとゼロだったというのが最大の根拠となる。怒りがあってもいいから、検査を続けていくべきだ」

 ―「3・11」以降、古里のために働きたいという子どもたちが出てきた。国連や海外で福島の現状を発表したり、自分たちのまちづくりを考えたりする子どもたちが出てきている。未来を担う若者にエールを。
 「目に付く支援は徐々に減っていくかもしれないけれども、若者が元気を出し、『福島をもう一度良くしたい』と面白い企画を立てれば、壁にぶつかっても『あの福島にこんな若者がいるのか。それなら応援するぞ』と日本全体から必ず支援が入る。福島の人々をこんなにも苦しめた原発が、いつか日本からなくなることを願っている」

 自分の強さに気付いて

 ―ピンチをチャンスに変える発想が必要だ。
 「『人間は弱いけれど、強い』と私はいつも思っている。ほんの少しでも手助けがあると不思議なほど強くなれる。手助けが必要な人には手助けをし、自分の中にある強さに早く気付いてもらうべきだ。10年後の福島県には日本の産業の最先端を走ったり、農業立県として立ち直り、健康寿命日本一にもなれる要素がある。健康と命と人生の幸せとはつながっている。震災と原発事故を経験した福島県の人たちは、助かった命の大切さを日本中の誰よりも知っている。ぜひ、五つの提言を実践してほしい。命を支える健康は生活習慣をちょっと変えればできる。若者からお年寄りまで一人一人が主人公のつもりで自分の健康に気を配れば、命と幸せにつながっていく」