【震災5年インタビュー】漫画「いちえふ」作者・竜田一人氏 ありのままの姿認識

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 たつた・かずと(自画像) 福島第1原発での作業体験を漫画にした「いちえふ 東京電力発電所労働記」を2013(平成25)年から漫画週刊誌で不定期連載し話題を集める。素顔や略歴は非公表。関東圏出身。51歳。

 東京電力福島第1原発の廃炉の現場で働く作業員の日々を描いた漫画「いちえふ」の作者竜田一人氏は、自ら作業員として原発と向き合った上でこう話す。「地震、津波の災害の大きさに比べ、あまりに原発事故がクローズアップされすぎではないか」

 「地震、津波で多くの人が亡くなっている。原発事故を過小に評価したいわけではないが、トータルの死傷者数を考えると、あまりに地震津波に対して過小評価しているのではないか」

 震災から5年で、いまだに本県の現状への正しい理解が進まない。竜田氏は「作業員を英雄視するのも違うし、虐げられている奴隷のようなかわいそうな人とみるのも違う」と話し、本県の置かれた状況を過大でも過小でもなく、ありのままの姿で認識し、全体像をみながら前に進んでいくことの必要性を訴えた。

 士気高い現場作業員

 漫画「いちえふ」の作者竜田一人氏(51)は、「5年だ5年だと盛り上がって終わりでは困る」と指摘する一方、「まだ福島県を危ないと言っている人には『もう5年たちましたよ』と言いたい」と力を込める。 (聞き手・編集局長 菅野篤)

 ―この5年間を振り返ると。
 「事故直後、『秋には人が死に始める、3年後には誰も住めなくなる、5年後には、がんや白血病が出てくる』と言う人がいたが、何も起きていない。これが答えだと思う」

 ―漫画「いちえふ」は反響を呼んだ。日本人が未経験の廃炉作業の現場を漫画で発信したのは大きな意義があった。
 「意義があると言っていただけるが、私が描いたものは私個人の体験談にすぎない。ただ、結果的にそれによって何かを感じていただく人がいるのであれば、それはそれでありがたい。『現場の作業員の顔を見えるようになって、ちょっと安心できた』という反響は、とてもうれしい」

 ―第1原発では、大型休憩所や食堂ができるなど、作業員の環境は改善されてきている。
 「私が働いていた時はまだ完成していなかったが、知り合いの作業員からは『施設ができてよかった』『今日の昼は楽しみだ』という声も聞く。そういう楽しみもでき、休憩所も広くなり、少しずつだが、普通の職場に近づいていっているのはうれしい」

 ―漫画は3巻で中締めとなった。廃炉作業はまだ続くが、「原発の今」を伝える今後の方針は。
 「今まで働いた分に関してはだいたい描いてしまった。またいい仕事があったら言ってくれと声を掛けているし、機会があればいつでも働けるようにしたいと思っている。また働ける機会があり、漫画にできるようなら描きたい」

 廃炉は慌てず、ゆっくり

 ―廃炉まで30~40年とされ、もっと時間がかかるのではないかとも言われるが、現場感覚として、どう思うか。
 「現場でも、(原子炉内の)核燃料や金属が一緒に溶け落ちた燃料デブリを見た人は、誰もいない。原子炉格納容器も、中はほとんど調査できていない。その中で30年、40年という数字に振り回されるのも愚かだ。何十年かかるか分からないが、結局は片付けなくてはいけない。今差し迫った危険はないのだから、言葉は悪いが、慌てずゆっくり、検討しながらやっていくしかないのではないか」

 「下請けに監視の目」必要

 ―廃炉現場にも多重請負構造がある。下請け順位が下がるに従い労働条件も悪くなるというが、どう感じるか。
 「それがいいとは言わないが、今、人を集める現場ではその方法しかない。多重下請けだからだめだと言うだけでなく、働く人がなるべく働きやすいように、下請けの階層をなるべく少なくするように、中で抜かれる金額がなるべく少なくなるように、下の会社にいってもある程度、福利厚生がしっかりするようにと、監視の目を向けていくしかないのではないか」

 ―ベテランの作業員ほど被ばく量が多く現場に出られなくなる。4年後の東京五輪に作業員が流れていくという心配もある。
 「それは賃金の問題。仕事に見合う賃金であれば、人は集まってくる。また、現場にはモチベーションが高い作業員が多い。賃金が高いから来る人もいるが、役に立ちたいという人もいる。『オリンピックよりこっちをやろうぜ』という気持ちで来てくれる人もたくさんいると思う。線量がいっぱいになり一度作業を終えた人でも、また戻ってくる人は多い。逆に、危険性や労働環境などの問題ばかりをクローズアップすると、イメージが悪化して二の足を踏む人が増えてしまうのではないか」

 ―原発では約7000人が働いている。届けたい言葉は。
 「私もただの下請け。『お疲れさまです。ご安全に』という言葉だけだ」

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