【東京芸大学長・宮田亮平氏インタビュー】 子どもの思い吸収を 個性や才能重視、変化には柔軟に

 
「自立心を持つ素晴らしい子どもたちを育てたい」と語る宮田氏

 広野町に来春開校する中高一貫校・ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」メンバーで東京芸大学長の宮田亮平氏は21日までに、福島民友新聞社のインタビューに答え、同校について「大人の夢をかぶせるのではなく、学校の空気を吸い、敏感に感じる子どもたちから出る思いを吸収できる学校であってほしい」と語った。従来の学校教育の概念にとらわれず、子どもたちの成長や周辺環境の変化に柔軟に対応する学校づくりを提言した。

 宮田氏は中高一貫教育の利点について「高校3年生は知識の中から自分を出そうとするが、直近まで小学生だった中学1年生には別の発想があり、そうした子どもたちが同じ空間にいることで得難い体験ができるのではないか」と指摘。その上で、ふたば未来学園高への期待として「自立心が普通の中学校や高校よりも格段につき、進学や就職時の進路決断に確信を持つことができるようになる。自立心を持つ素晴らしい人間が巣立つことを願う」と話した。

 また、現代日本を代表する金工作家、芸術家としての自身の同校での役割については「被災しながらも入学した子どもたちは少し心にハンディを抱えている。そのハンディをなくすためには、国語や算数、理科、社会だけではなく、美術や芸術だからこそできることがある」と語り、自ら教壇に立ち、子どもたちの個性や才能を伸ばす美術分野の授業実現に強い意欲を示した。


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  【宮田亮平氏インタビュー 聞き手:菅野篤編集局長】


 東京芸大学長の宮田亮平氏は福島民友新聞社のインタビューで、学生の個性を重んじる同大の校風を紹介しながら「自分らしさを考えられる人になってほしい。そうすれば、選択肢にも自分が選んだという責任を持つことができる」と、県内の子どもたちにメッセージを送った。


 ―広野町に開校するふたば未来学園高のためにできた「ふたばの教育復興応援団」のメンバーたちが果たす役割は。
 「17人全員がスペシャリストで、いろいろなことを考えている。(政府の)中央教育審議会の教育論ではなく、自分だったら何ができるのかをみんなが考えていると思う。面白く、わくわくし、魅力ある学校づくりを考える。ふたば未来学園高の取り組みを通して、被災地にもう一度、注目を集めたい。過疎や限界集落の問題に悩む自治体の関係者が見学に訪れるような学校にしなければならない。さまざまな人が『参考にしたい』と思えるモデルケースをつくりたい」


 ―中高一貫校の教壇で、これまでに培った経験に基づいて生徒たちに何を教え、何を伝えるのか。
 「私の専門は金属を溶かしたり、溶接したりする。火を使い、高度な技術が必要なので子どもたちに教えることは難しい。だからこそ子どもたちに会って考えたい。東京芸大は一つの課題に1カ月や3カ月の時間をかけ、朝から晩までやる。大学と同じことはできないが、(中高一貫校では)被災した子どもたちに自分の手で新しい物を生み出す大切さを伝え、生み出すという実感が持てる授業をしたい」


 ―授業以外で、中高一貫校の子どもたちのためにやりたいことは。
 「私は大学の卒業式や入学式の壇上で、和紙でできた特製パネルに一文字を揮毫(きごう)するパフォーマンスを続けている。書は誰にでもできるが、卒業式や入学式の場で書くことで、学生たちには忘れられない式になる。私は(同校の)入学式でこのパフォーマンスをやりたい。人間はつらかった思い出にはふたをし、それをひもとくことがなかなかできない。ただ、楽しかった思い出は忘れていても復元できる。だから、楽しいことを重ねれば、子どもたちに大きな力を与えられると思う。東京芸大と同じ大きさの文字を書くパフォーマンスで、字に込めた思いを子どもたちに話したい」


 ―宮田さん自身は、ご両親からどのような教育を受けてきたのか。幼少期の思い出は。
 「小学生のころ、毎朝、習字を書いてからご飯を食べた。母親がその字を見て『うまいね』と言ったことはなかったが、『面白いね』『昨日と違うね』と言ってくれた。だから、いろいろな字が書けるようになった。ただ、小学3年生の時、学校で手本を渡されても、自由に書いたら真っ赤に直された。だから今でも赤色にトラウマを感じる。母親の言葉が欲しくて、新しい字を想像していた。自分らしく生きることの大切さを教えられた」


 ―長く、教授、学長などとして教壇に立ってきた宮田さんの教育論とは何か。
 「『うまい、イコールいい絵』なのか。うまいではなく、いい、面白いということが大事だ。うまいは単なるテクニックだ。器用な子はたくさんいる。東京芸大では『器用な子、イコール最大の評価』には決してならない。むしろ、不器用な学生が没頭し作り上げた作品の方が良いこともある。世間の評価と美術の評価は違う。先生が1週間前に話したことを正確に覚え、自分の意思を入れないまま答案に書くと三重丸をもらえることがあるかもしれない。ただ、私たちは正確に覚え、咀嚼(そしゃく)する。そうすると、どれが『本当の正確』かが分かる。価値判断の違いだ。今まで褒められたことのない子どもが褒められた。一生、その子どもはその瞬間を覚えている。そういうものをよく見つけてあげることが私たちの仕事の中にある」


 ―宮田さんの教育論が形作られた原点とは何か。その原点に被災地・福島の子どもたちが壁を乗り越えるためのすべがあるのでは。
 「最近、10浪で入学した学生と話す機会があった。僕が『大学は面白いか』と聞いたら、その学生は『面白い』と言った。『10浪が財産』とも言っていた。僕も2浪して東京芸大に入学した。僕も2浪が財産だ。2浪して基礎力が付いたと思っている。東京芸大ではこれが当たり前。現役合格は毎年、全体の1割程度しかいない。日本画科にいたっては有史以来、現役合格がいない。世間では浪人にマイナス意識があるが、僕らは浪人はプラス意識だ。世間から見るハンディは財産に思える。失敗しないように、失敗しないようにと、それていく人もいるが、ぶつからなければ駄目なときもある。子どもたちには、はね返されてもぶつかっていってほしい。その時、大人はどう理解し、視点を変えて評価してあげられるか。その子どもを勇気づけてあげられるのか。子どもたちには『流れにさおをさした自分がいる』という強さを持ってほしい」


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 みやた・りょうへい 新潟県出身。東京芸大大学院美術研究科修士課程工芸専攻修了。同大美術学部教授、学部長、学長など歴任。金工作家として活躍し日展内閣総理大臣賞など受賞。文科省文化審議会長。69歳。