【劇作家・演出家・平田オリザ氏インタビュー】 異なる価値観への理解 国際化社会での意思疎通力養成

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「コミュニケーション能力の高い子どもたちを育てたい」と語る平田氏

 広野町に来春開校する中高一貫校・ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」メンバーで劇作家・演出家の平田オリザ氏は5日までに、福島民友新聞社のインタビューに応じ、同校での教育に平田氏自身が積極的に加わることで「多文化や多様性、異なる価値観を理解し、他者と(相互理解を図る)対話ができる学生を育てたい」と意欲を語った。
 同校は国際社会で活躍できる人材を育てる文部科学省の「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定を目指している。SGHの指導経験が豊富な平田氏は「英語での臓器移植の討論ができても、演劇のワークショップではコミュニケーションできないこともある。それで大人になり海外で何ができるか。英語をしゃべれるだけが国際化ではない」と表面だけの国際化に苦言を呈し、コミュニケーション能力の養成を重視したい考えを示した。
 平田氏は、本県の子どもたちが国際社会と向き合う場合について「三陸では震災後の支援にお礼したいという。福島の子どもたちはお礼だけではなく(原発事故後の現状などを)説明しなければならない。この状況をプラスに変えるのが大人の役割」と指摘した。また、「復興の課題は多様性の中で一つ一つ答えを決めていかなければない。地元に残った人、戻らない人、それぞれの心の痛みを理解することが一番大事」と述べ、教育にとどまらず本県復興を進める上でも他者を理解する能力が必要だと訴えた。

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 【平田オリザ氏インタビュー 聞き手:小野広司編集局次長】

 劇作家・演出家の平田オリザ氏は福島民友新聞社のインタビューで「今後の大学入試では、グループ討論で知識を基に自分の意見を論理的に発言するなど新たな学力が問われる。引っ込み思案の福島の人たちは危機感を持たないといけない。新設校はそこに強い生徒を育てたい」と語った。

 ―今回の教育復興応援団に参加したきっかけは。
 「旧内郷高をいわき総合高として開校する際、プロの演劇人を育成するのではなく、コミュニケーション能力とか合意形成能力を身に付けられる演劇教育ができないか―と相談を受けた。それをきっかけに福島県の教育には十数年関わってきた。一方、小泉進次郎復興政務官は芸術活動に関心がある政治家で、以前から知り合いだった。自然な流れで引き受けた」

 ―新設校でも同様にコミュニケーション能力の強化などを期待していいか。
 「まずは問題の本質を整理しなければいけない。東北はずっと東京への人材の供給源だった。学校教育も中央に役に立つ、優秀な子ほど中央に行くような内容で、地方の自立はほとんど考えてこなかった。これは震災とも原発事故とも関係なく、高度経済成長が止まった東北が90年代から考えなければいけない問題だった。福島にいることが誇りになる教育が必要だ」

 ―具体的には、どのような人材育成を目指すのか。
 「今、全国で成功しているまちづくりは、地域性と国際性を両立している。国境という仕切りはない。教育に関しても、地域でも世界でも活躍できる自立した人材の育成が必要だ。自立していれば、どこでも生きられる。東京に行く理由がない」

 ―平田さん自身が少年時代から既存の教育にとらわれない、非常にユニークな個性を発揮されてきたが、ご両親はどのような育て方をされたのか。
 「人と違わなければダメだと育てられた。日本では珍しいが、海外で仕事をしていると、ヨーロッパは基本的にそうで、『どこがあなたの特徴的なところか』と聞かれて『隣の人と同じです』などと言えば、評価にならず無能扱いだ。私は5歳のころから、小遣い以外で親に買ってほしいものがあれば、原稿用紙に『なぜ買いたいか』『買ったらどうなるか』の企画書を書かなければいけなかった。他人が持っているからという理由は親には通じなかった」

 ―福島県の子どもたちや親には、周囲と比べて突出した存在になることをあまり好まない傾向がみられる。そのためか、子どもたちが県外に出てもなかなか自分を表現できない。原発事故に伴う誤解などを十分に説明できないため、内にこもってしまう事例も指摘されている。
 「東北全県で仕事をしているが、福島はその傾向が一番強い。克服するには異文化と接触する経験が必要。それは国際交流でなくても、地域の大人との接触でいい。自分の最初のアルバイトは渋谷のラーメン屋だった。従業員や客と全く話が合わず、プロ野球の話題などで何とか接点を探した。若いうちに大人や外国人と接触を持たせるしかない。今は地方の子どもほど通学の際に車で送り迎えなど、大人との接触がなかったりする。学校教育でフォローしなければならない」

 ―新設校ではどのように対応していくべきか。アルバイト禁止の高校が多いなどこれまでの本県の教育環境をみると、教員の意識改革も必要ではないか。
 「小泉政務官には、中高一貫の全寮制の学校だが(外部に対して)閉じたらダメで、子どもたちを外に引っ張り出すことが必要だと言っている。自分でつくった演劇を地域の人に見せるとか、村祭りを手伝うとか、介護施設を回ったりするような地域還元授業をすぐにでもやりたい。演劇も含めてそのような体験を教科学習に結び付ける方法をアクティブラーニングというが、私が教職員に指導することになっている。いわき総合高でも何度もやってきた」

 ―保護者が納得して子どもたちを中高一貫校に預けるためには、どうアピールしていくのか。
 「高校進学は子どもではなく保護者が決める部分が大きい。応援団のメンバーにいくら人材をそろえても、この学校を卒業した場合の進路を説得力ある言葉で示さないと親からは選ばれない。6年後の大学入試改革をめぐり、文科省は『潜在的な学習能力を問う試験』を指導している。単なる面接ではなく、集団ディスカッションなど欧米のような試験方法になるだろう。欧米の有名大学の事例を調べると、受験準備があらかじめできないような設問を出すことは共通している。少しずつディスカッション型の授業を経験していかないと太刀打ちできない。国際基督教大では本年度から、受験生に大学の授業のノートを取らせ、そのあとに設問する形式を前倒しで実施している。双葉の新設校では新しい教育内容により、こうした面に強い子どもたちを育てたい」

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 ひらた・おりざ 東京都出身。国際基督教大教養学部卒。学生時代に劇団を結成、現代口語演劇で注目を集め国内外で受賞歴多数。鳩山内閣では内閣官房参与を務めた。東京芸大特任教授、大阪大客員教授のほか教育行政とも深く関わる。52歳。

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