水道橋博士、漫才師として"文"にこだわる 元都知事とも筆を通じて交流

(数字はいいね)  このエントリーをはてなブックマークに追加 
新刊『はかせのはなし』を上梓した水道橋博士 (C)ORICON NewS inc.

◇水道橋博士インタビュー(中)
 
 お笑い芸人・水道橋博士(54)が、待望の新刊『はかせのはなし』(KADOKAWA)を17日に発売した。『広報東京都』で連載されたエッセイを全面修正し、大幅加筆してまとめた本書は、熱い男たちをテーマにしてきたこれまでと作品と一線を画した作風だが、文章のテクニックや本を作り上げるプロセスはこれまで以上に熱がこもっている。その背景や現在の東京への思い、そして"文"へのこだわりを明かした。

水道橋博士インタビュー(上)石原慎太郎への失望

■文章のテクニックにこだわる理由「俺は漫才師だから」

 水道橋博士の文章の特徴といえば、何重にもかかった掛け言葉や心地よいリズムで整えられた韻文(ライム)など、緻密に練られたテクニックの数々。天才的なセンスで作り出しているのかと思っていたが、「いや、僕はものすごく推敲していますよ。過去の著作では"推敲の跡が見えすぎてつらい"という書評もあったくらい」と否定する。相棒・玉袋筋太郎との共著『キッドのもと』は、パートごとに書き分けられているが、博士のパートは掛け言葉だらけでやや難解な文になってしまい、口語調で書かれた玉袋のパートのほうが読みやすいという評価も聞かれた。「だから文庫化する際に掛け言葉を全部外そうとしたら、編集者から『僕はこれが好きなんで残してください!』って頼まれて、僕が指定した100ヶ所以上外すところを10数カ所だけにしておきました(笑)」。

 新作でも掛け言葉や韻文は随所に用いられている。そのこだわりの理由は単純明快で「僕の本業は作家じゃなくて、漫才師だから」。ただ、読者にとって伝わりにくい表現を避けるため、博士は本を作るごとに編集者や側近スタッフたちとチームを結成しており、今作もターゲットの女性&子どもに読みやすくなるよう「流れを変えたほうが読みやすい」「このダジャレの意図を説明した方がいい」という意見を取り入れた。

 「チームで本を作り上げるのって、徹夜麻雀してるような感覚で本当に楽しいんですよね。文章に間違いがないか真面目にチェックしてるんだけど、面白くてゲラゲラ笑っちゃうような意図的に間違えている表現を校閲さんが見逃してたり、何回見ても必ず間違いが出てくる。今回の本は、最後の最後までみんなが見落としていた誤表記を面白いからってあえて残していたりします。校閲部の"校閲ガール"ですら見逃したところですね」

 偶然が生み出した産物もあった。犬を飼いたいという長男が「ワンワンワン」と話しているエピソードが、たまたま111ページに掲載されることになり、挿絵も犬のイラストを入れた。「狙ったわけじゃなくて偶然で、みんなで読み合わせしていて気がついた。その後、俺が別のページに修正を入れたいと言ったら、編集者から『それじゃあ"ワンワンワン"が111ページからズレます』と言われて、じゃあやめておこうってことになりました(笑)」。

■「戦争だけはしたくない。そして絶対に政治家になりたくない」

 本書は東京都の広報紙で連載されたエッセイで、2009年からスタートし、舛添要一・元都知事が就任した2014年2月に終了した。もし現在の小池百合子都知事からまた連載をオファーされたら、再度引き受けるか聞いてみると「小池さんは"文の人"じゃないから、オファーはないと思う」と断言。「石原慎太郎さんや猪瀬直樹さんは文を大事にする人だったし、猪瀬さんは僕が書いた文章を自分のサイトに引用してくれたり、顔は合わせてなくても筆で交流していた」と胸の内を明かした。

 小池都知事の政治手腕については、どう評価しているのか。「東京の小池百合子も、大阪の松井一郎府知事のおおさか維新の会も、名古屋の河村たかし市長の減税日本も、みんな改憲勢力だからね。小池さんも胸のすくようなことを言ってるけど、いざ新党を作ってみんなが投票して、いつの間にか改憲していた、ということの無いように警戒心を持ってほしい」。そして、語気を強めて言葉をつなげる。「戦争だけはしたくない。そして、自分はただの芸人でありエロオヤジでありたいから絶対に政治家になりたくない」。

 では、新たな書き手を推薦してもらうと、真っ先に名前が出たのはお笑い芸人にして芥川賞作家の又吉直樹。「一作で終わるひとではないから」。そのほかにも今後の活躍を期待する人として、元NHKアナウンサーでジャーナリストの堀潤氏、メディアジャーナリストの津田大介氏、評論家でラジオパーソナリティーの荻上チキ氏など「個人として使命感を持っていろんな現場に行って、いろんな意見を聞いて、真面目にちゃんとやってる人」として名前が挙がった。

 "文"を愛する博士が、今後目指している道について聞いてみると「文には引き篭もらない。芸人としてたけしさんに弟子入りして、芸人を全うするためにも人前に出て芸をやるという契を結んでいる」という大前提があると明言した上で、こんな展望も明かしてくれた。「僕が編集長やっているメルマガ『水道橋博士のメルマ旬報』は、60人くらい執筆者がいるけど、ほとんどが事務所に入ってないフリーの人たちだから、呼び掛ければ、書籍コードを持って休眠している出版社を買収して、自分が出版社を立ち上げることもできると思います。だから、もし芸人という肩書をふっ飛ばすことがあるなら、出版社をやりますよ」。この人の"文"の熱が冷めることは、決してないのだろう。