渡辺謙「ドラマの力を感じた」 山田太一脚本で震災の“その後”描く

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11月19日放送、テレビ朝日系ドラマスペシャル『五年目のひとり』に主演する渡辺謙 (C)ORICON NewS inc.

 俳優の渡辺謙が主演するドラマスペシャル『五年目のひとり』が19日(後9:00)、テレビ朝日系で放送される。脚本家の山田太一氏が東日本大震災の“その後”を題材に描いたオリジナル作品。東京のとある街を舞台に、震災によって心に大きな傷を負った孤独な中年男が、多感な少女との不思議な出会いを経て、“再生”していく話だ。

ドラマスペシャル『五年目のひとり』場面写真

 今年2月に胃がんの手術を受けた渡辺だが、3月には米ブロードウェイでミュージカル『王様と私』の舞台に復帰。5月下旬にはこのドラマを撮っていた。その後は、主演映画『怒り』のプロモーションで世界各国の映画祭に参加する姿を、メディアを通してよく目にした。その一方で、震災発生直後から行っている支援活動をいまも続けている。

 渡辺は「山田太一先生の作品には一も二もなく参加させていただくのが、ここ数年の私の通例となっていますが、今回、山田先生から“震災で心に傷を負った孤独な男”を書きたいとお話をいただいたときは、背中に一本“ピン”と張るものがありました」と語る。

 脚本を読みながら、被災地で出会い、交流のあった人たちの顔が思い浮かんだ。「一筋縄ではいかない心根(こころね)を抱えている方々がたくさんいるということも、これまで多々目にしてきました。苦難を乗り越え、立ち直った人。立ち止まったままの人。忘れなければ生きていけない人。忘れたら生きていけない人。被災された方々の心に寄り添ったドラマにしなければ、と思いました」。

 渡辺が演じるのは、都内のどこかの商店街にあるベーカリー「ここだけのパン屋」でアルバイトを始めた中年男・木崎秀次。半年間ほど複雑骨折で入院していたため、無給でいいから社会復帰のリハビリとして働きたい、と同郷の知人・花宮京子(市原悦子)に店を紹介してもらった。木崎には、秘密にしている過去があって…。その秘密に、東日本大震災が関係している。

 渡辺「ダイレクトに震災を描くのではなく、1人の男の心の裏側から起きてしまったことの大きさがあぶりだされる脚本。こんなことができるドラマって、なんてすごいのだろう。ドラマの力を脚本から感じました」。

 どうにも似合わないエプロンを付けて働く秀次。たまたま訪れた中学校の文化祭でダンスを披露していた1人の少女に目を奪われる。こみ上げる気持ちのまま、「君のダンスがいちばんキレイだった」と少女に声をかけたことから、物語は動き出す。

 実は、このシーンに、フィクションの醍醐味が隠されている。脚本の山田氏は「震災の被害に遭っていない方たちにも自分のこととしてこのドラマを見てもらうために、エンターテイメントな味わいを加えようと思い、一滴だけですが現実から離れた設定を、謙さん演じる男と少女との関係に書き込みました。そのことで男に起こる心の波立ちは普通じゃない。冷静ではいられないことが、男が回復していないことを物語るのですが、ドラマをご覧の方には、自分だったらどんな反応をするだろうと比べてもらい、少しでも皆さんに近い物語として感じてもらえればいいなと思いました」と話している。

 見知らぬ少女に声をかけるなんて、一歩間違えれば“危ないおじさん”になってしまう。ドラマの中でも、少女の母親が通報する騒ぎになるが、渡辺は「なぜ、その子に声をかけたのか、というのはこの物語上、とても重要でしたので、だからこそ、いやらしく見えないように、神経を使ったというか、難しかったですね。本当に心から『いちばんキレイだった』と思っていることが、少女に伝わるように演じました」と振り返った。

 また、山田氏が「震災から6年目に入っても、まだちゃんと泣いていない人がきっといるに違いないと思いました。謙さんには震災に遭った人たちの代わりに、思いっきり泣いてもらいと思っていました」と期待したとおり、渡辺も「自然と泣けた」場面でクライマックスを迎える。

 渡辺「震災からもう5年も経っていると思う人もいるかもしれないけれど、当事者にとっては時間が止まったままであることを改めて感じました。吐き出せずにいたり、受け止められずにいたりする人もいる。一人ひとりの心をないがしろにしてはいけないな、と実感しました。だからこそ、しっかり過去といまとをつないでいくことを考えなくてはいけない。そういうことに気づかせてくれるドラマになったと思いますし、ドラマってそういうことができるから好き。皆さんの心のポケットにしまっておいて、時々取り出したくなるようなドラマをこれからもやっていきたいですね」。

 秀次が出会った少女・松永亜美を演じるのは蒔田彩珠(まきた・あじゅ)。亜美の兄・晋也役で関西ジャニーズJr.の西畑大吾、さらに、高橋克実、柳葉敏郎、木村多江、板谷由夏、山田優らが出演する。