イケメン正統派俳優の"悪役"岐路

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実写『不能犯』で初のダークヒーローに挑むことが発表された松坂桃李(写真:逢坂聡)

 ここ最近、相次いで主演クラスの正統派イケメン&好青年俳優の悪役初挑戦が発表された。ジャニーズの中山優馬が12キロ減量して殺人者を演じる主演ドラマ『連続ドラマW 北斗-ある殺人者の回心-』(WOWOW)、松坂桃李が不気味な能力で人心を操るダークヒーローを演じる人気漫画『不能犯』の実写映画化――。近年でもV6の森田剛が殺人鬼役を怪演した映画『ヒメアノール』も鮮烈なインパクトを残し(舞台ではこれまでにも悪役を演じているが、ドラマや映画などメジャーシーンでは初)、好青年系俳優の悪役挑戦は常に話題になっている。観る者はもちろん、演者をも惹きつける"悪役"の魅力と利点とは?

【写真】『不能犯』赤い瞳の松坂桃李とキャラ原画を比較

◆"ダーティーヒーロー"に世間が魅了される転機となったのが

 邦画の世界でインパクトのある悪役を演じた名優と言えば、『姿三四郎』(1943年)の月形龍之介、『山椒大夫』(1954年)や『近松物語』(1954年)の進藤英太郎、『飢餓海峡』(1965年)の三國連太郎、『キングコングの逆襲』(1967年)の天本英世など数知れず。名脇役から悪役に転じた者も多いが、一方で『座頭市物語』(1962年)の勝新太郎のように、正統派の役柄ではなかなか芽が出ず、悪の要素のある役柄(『不知火検校』)を演じてからスターになる俳優もいた。

 語弊があるかもしれないが、一般的に日本では、正統派の好青年系を演じるスター俳優はずっと好青年系を演じてきたイメージが強く、悪役はダークヒーローを演じ続けるイメージが70年代ぐらいまでは強くあった。俳優として悪役のイメージがあり、どこか"棲み分け"のようなものが感じられたものだ。だが、悪役でデビューを飾り(『狼の紋章』)、その後さまざまな役柄を演じることになる故・松田優作さんの"ダーティーヒーロー"人気など、70年代後半ぐらいから映画ファンの間だけでなく、お茶の間レベルでもその垣根が曖昧になっていく。

「正統派の役柄をいくらでもオファーされる主演クラスのスターが"悪"や"ダーティー"な役柄を演じ、その魅力を世間に定着させたという意味での代表例は、おそらく映画『太陽を盗んだ男』(1979年)の沢田研二さんだと思います」と語るのは、エンタメ誌ライター。「そもそも悪にならざるを得なかった......堕ちざるを得なかった者たちの"心の弱さ"や"繊細さ""哀しさ"など人間味が感じられる"悪役"は、アメリカンニューシネマの影響などで人気がありましたが、『悪魔のようなあいつ』(75年 TBS系)、『太陽を盗んだ男』での沢田さんの成功によって日本でも、正統派スターと悪役の垣根は格段に低くなったと言えます。これにより事務所側の姿勢も変わりました。"悪役"で評価を確立してスターを目指したり、新たに人気を獲得したりする道に光明がさしたのです」(同ライター)

◆演技力が問われる悪役挑戦は諸刃の剣でもある

 こうした時代の流れを経た昨今、正統派の好青年役で売ってきた俳優にとって、芝居の道で生きていくうえで悪役を演じることは避けては通れない通過点であり、そのタイミングはまさに俳優人生のひとつの岐路になっている。『十三人の刺客』(2010年)の稲垣吾郎、『アウトレイジ』シリーズ(2010年~2012年)の加瀬亮、また仲村トオルや藤原竜也、山田孝之、長谷川博己など、イケメン的要素の強い俳優たちが、そこから新たな一面を引き出されている。

 その一方で、この流れとは逆のパターンで、悪役から注目されてお茶の間の人気を得た俳優たちもいる。映画『帝都物語』(1989年)で絶対悪・加藤保憲を演じた嶋田久作、脇役が完全に主役を食ったとも言える『ずっとあなたが好きだった』(1992年)の冬彦さん役の佐野史郎など。正統派ばかりが登場する物語に視聴者が飽きてきたこともあるだろうが、悪役が主要人物としてフィーチャーされる作品がヒットした。この時代の波を受けて、元々実力派だが改めて広く俳優としての存在を知らしめたり再ブレイクしたりした俳優は、石橋蓮司や岸部一徳、香川照之、遠藤憲一、木下ほうか、六平直政、でんでん、吉田鋼太郎と枚挙に暇がない。当然、彼らが悪役イメージで視聴者に忌み嫌われることもなく、演技派としての評価が確立されていく。

「美形が"悪役"を演じるのが人気というのは何も新しい現象ではありません。江戸後期には伝統芸能の歌舞伎で"色悪"という美形なのに"悪役"という敵役が成立して人気を博していますし、流行に流行り廃れがあるだけで、そもそも日本人はそのスタイルが好きだったんです。ただ"悪役"はイメージが強すぎる面もあります。今年放送された松岡茉優さんと桐谷健太さんが主演の『水族館ガール』(NHK総合)では、松岡さん演じるヒロインを気遣う優しい上司を木下ほうかさんが演じたのですが、『実は』と言おうか『やはり』と言おうか(笑)、その上司はヒロインを陥れる悪役でした(第1話)。同作は大変よいドラマだったのですが、このように"悪役"イメージの俳優は、その存在だけでよくも悪くもネタバレになることもあります」(同ライター)

 好青年役を多く演じてきたイケメン俳優がそのパブリックイメージと異なる悪役を演じることで、意外性が話題になることも事実。作品や役柄にハマれば、演技の幅を見せられることで俳優としての評価が上がり、これまでとは異なる新たな顔を見せることでファンも増えるかもしれない。ただし、芝居としても高いレベルの技術が必要になる悪役は、正統派で売ってきた俳優にとっては諸刃の剣でもある。数年前に悪女役でブレイクを果たした女優の菜々緒が過去のインタビューで「悪役のイメージがついていたとしても、それは私の名刺代わり(笑)」と語ったことがあるが、"悪役"に踏みこむ際にはそれぐらいの覚悟で挑んだ方がいいのかもしれない。
(文:衣輪晋一)