変わりゆく映像業界でも変わらない陣内・柳葉・中井の絆

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「同世代を生きてきた自負がある」と語った(左から)中井貴一、陣内孝則、柳葉敏郎 (C)ORICON NewS inc.

 1980年代からバブル期を経て、現在まで30年以上も俳優として第一線で活躍する陣内孝則(58)、柳葉敏郎(55)、中井貴一(55)が映画『幸福のアリバイ~Picture~』(公開中)で顔をそろえた。陣内は監督、柳葉と中井は俳優と立ち位置は違うが、その関係性はまぎれもなくお互いに対する"敬意"という絆で結ばれている。「同世代を生きてきた自負がある」という3人が、互いへの思いや、映像業界の移り変わりについて、爆笑トーク交えつつ熱く語ってくれた。

【写真】『幸福のアリバイ~Picture~』メインカット

■出演のきっかけは監督からの直接の電話 3回の謙虚な言葉が逆に...

 陣内監督の元に馳せ参じた柳葉と中井。オファーは陣内からの一本の電話だったという。「作品の内容からどうしても中井さんと柳葉さんの顔が浮かんだんですよ。本当はいけないことなんだろうけれど、とりあえず台本を読んでもらえませんかと直接本人に連絡したんです。もちろんお忙しい2人ですし『断ってもいいですから』って3回ぐらい言いましたよ。でも3回言うと、それは『断るなよ』って聞こえたみたいで...」と、いつもの陣内節が飛び出す。

 そんなオファーに対して柳葉、中井ともに「間違いなく『断るなよ』ってことだと理解しました」と苦笑い。しかし「メールとかではなく直接電話をいただきましたし、陣内さんがメガホンをとられるとなれば『自分にできることがあれば』って気持ちになりますよね」と柳葉が語ると、中井も「多少年齢は違いますが、僕らの中には同世代を生きてきたという自負がある。誰かに何かあれば、協力したいという気持ちになるんです」と胸の内を明かす。

 陣内監督も「僕の昔の恩人が亡くなる前に『最終的にヤバいときに助けてくれるのは友達だから大切にしないとダメだ』って言っていたんですね。当時はピンと来てなかったのですが、今回この映画に2人が出演してくれたことによって、すごく作品が締まったんです。なるほどこういうことなんだなって。すごくありがたかったです」と真剣なまなざしで感謝を述べる。

 それぞれ30年以上も俳優という仕事に携わっているが、キャリアを積むとともに立場も変化していったという。柳葉が「あるときから誰からも文句を言われなくなるんだよね。自分の演技がいいのか悪いのか、何も言われないと不安にかられることがあるんですよ」とつぶやくと、中井も「もちろん怒られるのは嫌ですが『あなたたちは任せてもできますよね』って(演出を)飛ばされると『なんか言ってよ!』って気持ちになるんだよね」と変化を嘆く。

 そんな立場になってしまったからこそ、たまに遭遇する破天荒なシチュエーションに気持ちが上がることもあるという。陣内監督は「今ミュージカルの稽古をしているんだけれど、そこで若いハーフの子が俺の側にやってきてやってきて『今の演技良かったよ』って言うんですよ。なんかそういうのがうれしかったりするんだよね」とエピソードを披露する。

■変わっていく撮影の環境と、変わらない役者としての心意気

 自身の立場が変わっていく一方、映像業界を取り巻く環境も大きく変わってきていると指摘する。陣内監督は「昔って変なこと炊きつけられていたなって思うんですよ。撮影の合間に普通に会話していると、監督が来て『何緩んでるんだよ、もっと役に浸れよ』って怒るんです。それである俳優さんが、集中しているときにエキストラさんが話しかけたら、いきなりぶん殴ったって話をするんです。そのぐらい真剣にやれって言いたいのだろうけれど、今考えると、どうなんだろうって思うよね」と語る。中井も「僕らの若い頃ってすごく怒られた世代で、ボロクソ言われるのが当たり前だったのですが、いまって、厳しくするのがいけないという世の中になってきていますよね」と追随する。

 しかし、過去と現在のどちらが良くてどちらが悪いというのはナンセンスだという。柳葉は「今の20~30代の役者たちも、彼らなりに破天荒だと思うんです。俺も当時はかなり役にのめり込んでやっていたつもりだけれど、いまの若い人たちを見ていると、実は彼らの方がストイックに役柄に取り組んでいるんじゃないかって気づかされることもあるんです」と若い俳優たちを評価すると、中井も「時代関係なくそれぞれ俳優さんによってアプローチの方法は違う。若い子でもすごいやり方だなって思うことはあります。昔は尊敬するのは先輩と決まっていましたが、今は年下でも尊敬に値する子がたくさんいる。そう思うと、役者って終わりのない仕事なんだなってつくづく思いますね」と柔軟な姿勢を見せる。

 若い頃は大先輩の叱咤激励にもまれ、キャリアを積むごとに、周囲から畏敬の念で見られるようになりつつも、おごることなく広い視野で若い世代から多くのものを吸収しようとアンテナを高く張る。常に一線級で活躍している理由が垣間見えるような立ち振る舞いだが、そんな3人に俳優人生で最も残しておきたい"幸福な瞬間"について質問をぶつけてみる。

 陣内監督は「俳優人生ではないっすね」と即答するが「ドヤ顔なら残したいかな。競馬場で万馬券とって、高額払い戻しの窓口に並んでいたとき、周りの馬主から『並ぶ場所違うんじゃない』って言われるわけですよ。その時に『本線でとりましたけれど...』って札束持って言ったときのドヤ顔、あれは残したいですね」と回答。そんな陣内監督の発言の後を受けた柳葉は「当たり前で申し訳ないけれど、初めてエキストラレギュラーという立場でセリフをいただいたときかな。その時のうれしさと快感、たった一言だったのですが、その達成感が今につながっていると思うんです」と真摯(しんし)に答える。

 さらに中井は「若いころは役者の道に進む気はなかったのですが、本当にやろうと思ってからは、親父(故・佐田啓二さん)の息子だからと言って、足下駄をもらって生きていくような人生は歩まないって決めたんです。10年は自分の中で修行と決めて、仕事を始めました」と語ると、「10年が過ぎたあたりから俳優って一つの仕事が映画のワンシーンだと思ったんです。それを心の中で編集してつなげている。陣内さんや柳葉さんとの出会いも作品の一つ。最終的にどんな最期を遂げるかはわからないけれど、自分だけの人生を上映するのかなって。自分の一生という映画の監督を今やっているんだと思います。大きく言うとそれが残したいものかな」としんみり。

 柳葉や中井の話を聞いた陣内は「ごめん、俺の発言、言い直していい? 貴一ちゃんの発言に比べるとすごくチープだよね、万馬券でドヤ顔なんて...」と笑いを誘う。そんな陣内に、柳葉は「それぞれ、それぞれ」とたしなめる。この言葉こそ、3人の関係を物語っているように感じる。それぞれまったく違う個性が集まっているが、同じ時代を生きてきた戦友として互いに尊重し敬う。変わりゆく時代の中で、変わらない絆――。そんな関係が映画にも色濃く映し出されている。(取材・文:磯部正和)