国民的アニメ『サザエさん』の“普遍性” 東芝CM降板でどう変わる?

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多くの人に親しまれる国民的長寿アニメ『サザエさん』(写真はアルバム『サザエさん音楽大全』2013年発売/ユニバーサルミュージック)

 国民的アニメ『サザエさん』(フジテレビ系)を48年にわたりスポンサードしてきた東芝が、先ごろ降板を正式に発表。それに伴い、「次のCMスポンサーはどこになるのか?」など、さまざまな憶測がSNSを中心に飛び交っている。老若男女誰もが知る“国民的番組”を半世紀の間支えてきた東芝の功績。さらに、スポンサー変更による『サザエさん』への影響について考えてみたい。

【画像】36歳カツオは自由人!? 25年後の実写版磯野家

■経済にも影響!? 国民生活と常にリンクしてきた怪物番組

 『サザエさん』は、アポロ11号が史上初の月面着陸を達成した1969年の10月に、東芝の1社提供として放送がスタート。家電市場が頭打ちになった1998年に1社提供を終了したものの、48年にわたってCMを提供。エンディング時の「エネルギーとエレクトロニクスの東芝がお送りしました」というセリフが印象に残っている人も多いのではないだろうか。

 日曜夕方6時の顔として定着した『サザエさん』は、1979年9月16日には最高視聴率39・4%を記録(ビデオリサーチ社調べ、関東地区)。これはアニメ歴代視聴率3位で、その冠名に恥じぬ「国民的番組」と言える。「家族で見られる」「日曜日の時報的存在」などと言われるほか、『サザエさん』の視聴率が上がると株価が下がり、逆だと上がるとされる通称「サザエさん効果」(大和総研レポート)、夫が妻の実家で生活する夫婦の状態を「マスオさん状態」、日曜の夜に月曜の到来を憂う「サザエさん症候群」など、『サザエさん』が鉱脈の流行語が次々と誕生。それほどに、国民生活とリンクする“圧倒的安定感”が支持されてきた。

 そんな“国民的な人気番組”として、アニメとしては驚異の数字である視聴率2桁をマークしてきた『サザエさん』だが、2016年からは1桁台も増加。視聴率的に苦戦を強いられているが、メディア研究家の衣輪晋一氏は「いまの時代、“家族で観る”という以外に、“ネットで盛り上がる”という別の楽しみ方が生まれている。視聴率だけが評価の指標ではない」と話す。

■“昭和”を引きずり続けるのにネットとの親和性は抜群!? 楽しみ方に変化が

 事実、SNS上で『サザエさん』発のワードが話題になることは多い。例えば、ワカメのクラスメートで、将来の恋人候補的な存在だった堀川くん。彼には現在、ネット上では“サイコパス”の異名がつけられている。その発端となった代表的な奇行(?)のひとつに「ひよこ事件」がある。ある日、ひよこを手に入れた堀川くんは、そのひよこに“わかめ”と命名。“わかめ”を育てて卵を産ませ、その“わかめ”の卵をワカメに食べさせようとしたのだ……。磯野家のトラブルメーカー・カツオは、時折見せる悪魔的閃きから「天才」「有能」などとカツオ推しの声で盛り上がる。また、タラオはそのあまりの無邪気さや、すぐに家族にチクる習性から「安定のチクり」などと揶揄されたり、磯野家にあったジェラートを“磯野家にそぐわぬものがある”と勝手に食べてしまったノリスケには、「ハイエナ炎上おじさん」との異名が付けられたりもした。衣輪氏はこうした盛り上がりについて、「フジテレビの某プロデューサーに聞いたところ、“本当に人気のない作品はネット上でもスルーされる”」とのこと。自力のある番組は、例え視聴率が低迷していてもネット上を賑わせることが多い。視聴率が低いからといって一概に“人気が落ちた”などとは言えない時代だと分析する。

■“物言わぬスポンサー”に徹した東芝の矜持

 何より、『サザエさん』が支持されてきた理由として、“いつまでも変わらない”普遍性にあると衣輪氏。「サザエさんの声を演じる加藤みどりさんも『家族というものは、毎日同じことをやっているようで、その言動は実は日々違っている。だから話題が尽きない』と語っていました。変わらない大事さと、そのなかで語られる“繰り返される日常”の面白さが魅力です」(衣輪氏)

 その“普遍性”を支えてきたのが、他ならぬ東芝ではないだろうか。黒電話に昔ながらの家電製品…『サザエさん』の番組内では約半世紀にわたって“変わらない日常”が描かれてきた。衣輪氏は「それは、スポンサーとしての“影響力”を番組内で行使しなかった東芝の“矜持”ではないか。そして『サザエさん』が国民的番組として愛され続ける要因のひとつと言って過言ではない」とも。仮にスポンサーによる作風の変化や露骨な商品訴求があった場合、ファンから反発の声があがることは想像に難くない。

 実際、東芝のスポンサー降板が取り沙汰されてから、ネット民は「サザエさんがどう変わるか?」と蜂の巣をつついたような騒ぎに。SNS上では次のスポンサーを予想したコメントも多く寄せられ、「保険会社がスポンサーになったら磯野一家がやたらと怪我しそう」「不動産会社だったら花沢さんの出番が急増したりして…」など、さながら大喜利合戦の様相を呈した。

 また11月初旬には、美容外科「高須クリニック」が新スポンサーに名乗りを上げたことも大きな話題に。「波平に髪の毛が生えそう」「サザエが豊胸しそう」「花沢さんが美容整形して、ついに磯野をゲット!?」など、こちらもネタ合戦になった。しかし、衣輪氏は「こういったネット上の動きはあくまで“ネタ”であり、実際は『サザエさん』が変わることを望んでいる人は少ないはずです。時代は変われど、サザエさん一家の“変わらぬ家族の風景”が描かれているからこそ、その“普遍性”が愛されている」と話す。

■新スポンサーに問われる“介入しない”覚悟とは⁉

 “東芝降板”が噂され始めてから、ネットでは“賑やかし”として様々なスポンサー名が取りざたされてきた。この状況に衣輪氏は「実際のところ国民的人気番組のCM枠は引く手あまたでしょう。ただし、原作者への配慮も含め、ナショナルクライアント(全国規模のブランド)以外は考えられないだろう」と分析する。そして何より、「『サザエさん』の生命線である“普遍性”を維持するためには、CM提供になった場合“番組に介入しない”という覚悟もスポンサーは問われる」と衣輪氏は解説する。

 とはいえ、そう遠くない時期に新スポンサーは明らかになる。どの会社がスポンサーになったとしても、『サザエさん』を『サザエさん』たらしめる“普遍性”がどう継続されてくのかに注目したい。

(文:中野ナガ)