“悪童”からプロ声優に 落合福嗣を育てた“落合流”教育術とは?

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アニメ『グラゼニ』で主人公・凡田夏之介の声優に決定した落合福嗣 (C)oricon ME inc.

 “プロ野球界のレジェンド”落合博満の愛息子・落合福嗣。年代によっては“フクシくん”の愛称で記憶している方も多いだろう。その幼少時代のヤンチャエピソードはもはや都市伝説化しているが、そんな“悪童”も今年で30歳。現在はプロ声優として活躍し、2018年「BSスカパー!」でアニメ化される『グラゼニ』(講談社刊)では主人公・凡田夏之介の声優を務める。果たして、落合家は“悪童・フクシくん”をどう育てたのか。そして豪快エピソードの真相について本人に直撃した。

【画像】『グラゼニ』のために声優になった? 落合福嗣のソックリ対比カット

■甦る“落合フクシくん”伝説 「部屋でおしっこ」「お札バラまき」悪童エピソードの真相とは?

 “落合フクシくん”といえば悪童エピソードがあまりに有名。そのインパクトが強いため、ネット上の話には誇張もあるのでは? と福嗣氏に聞くと、「それが、誇張はされてないんです」と苦笑する。「当時の僕にとって『マスコミ』と『ファン』は“敵”でした。プロ野球選手って、移動日になる月曜日は休みで、火曜から日曜までは毎日試合がある。平日はナイトゲームだから幼稚園に行く朝の時間、父はまだ寝ているし、帰ってきた時にはもう球場に行ってしまっている。ずっとすれ違いでほとんど母子家庭みたいな感覚。だから、父と会えるのは本当に貴重な時間だったんです」と当時の心境を赤裸々に語ってくれた。

 そのため、父親が休みの日に「動物園に行くか?」と誘われれば、福嗣氏のテンションは爆上げ。ところが、家から一歩外に出るとスポーツ紙の番記者がいて、「お父さんに話を聞くから、福嗣くんはこっちにいてね」と父から遠ざけられる。また、動物園に行っても今度はファンに囲まれて、また父親から離されてしまう。だから福嗣氏は、「当時はどうにかして“この大人たちを撃退しなくてはいけない」と子供ながらにずっと考えていたとのこと。
 「記者を蹴ったり、クツの中にアイスを突っ込んだり、持ち物を隠したりもしました。なぜかといえば、物を隠せばその人は探しに行くから父の周りからいなくなる。そうやって、ひとりずつ遠ざけることで、父からの注目を集めようと必死でした。1年間ほとんど会えない父親と遊べる貴重な時間、それを1分1秒たりともジャマされてたまるか! と思っていた」と福嗣氏は打ち明ける。でも結局は、父親と動物園に行ってもマネージャーと一緒に見て回った記憶しかなく、幼少期は寂しい思いをしたようだ。

 何より、ヤンチャばかりが強調される“フクシくん伝説”について“これは言っておきたい”と福嗣氏は語る。「僕のエピソードについては、『この話は何歳の時』ってちゃんと年齢を書いて欲しいですね。“女子アナのスカートにもぐった”とか“胸を揉んだ”というのは、僕が幼少期のころですからね。だから年齢を書かないと、もうただの事件ですよ」と笑う。
 そして、“フクシくん伝説”の代表的エピソードとされる「おしっこ事件」の真相を教えてくれた。「幼稚園入園前の話ですね。あれは家に取材が入っていて、『おしっこ行きたい』と取材スタッフに言ったんです。すると『じゃあ、ここでしちゃいなよ』と言われてやったことなんです。しかも僕は、そんなことをしたら『お母さんに怒られる』って反論しているんです。そしてガマンできずに……。それをカメラに撮られたという(笑)」
 これまで、“悪童・フクシくん”を語るうえで真っ先にあげられていたエピソードに、実は“大人の思惑”があった…!? では、「札束をバラまいた」件も作り話なのかと聞くと、「いえ、バラまきました(笑)」とのこと。ただ当時はまだ小さく、福嗣氏からしたらいつも折ってる折り紙と何が違うの? という感覚だったようだ。この件について福嗣氏は「お札の価値もよく分からない年齢でしたからね。でも、TVではお札をバラまいて遊んでるとこで終わってるんです(笑)」とも。こうしたTV放送の影響から、落合家は福嗣氏をまるで野放しに育てたように思われているが、決してそんなことはなく、お札をバラまいた際も母親から相当怒られたと振り返る。

■フクシくんでも絶対に許されない、知られざる「落合家3つの掟」 

 落合家は、何をしても福嗣氏を怒らないイメージがあると伝えると、「それは違います」と同氏は強調する。「父も母も僕を自由に育ててくれましたが、落合家のルールとして『お金を粗末にすること』『嘘をつくこと』『相手に暴力を振るうこと』に対してはかなり怒られました。逆に、それ以外なら『なんでもやっていいよ』という教育方針でした」と福嗣氏。一般の家庭なら普通に怒られることでも、頭ごなしにダメとは言わないのが“落合家”の教育方針だったようだ。
 「例えば箱型のティッシュの中身をバラまいたりしたら、普通の家庭なら『ダメ!』と言われます。なぜかといえば、親が後で片付けるのが面倒くさいから。でも落合家では、2、3歳の子供にとってはティッシュもオモチャでしかない。だったら遊ばせてしまえと。後片付けは後で自分たちがやればいいと」(福嗣氏)

 子供には“なんでもチャレンジさせる”という「落合家」の流儀。実際、こんな経験もあったと福嗣氏はいう。「小さいころ『お風呂の湯加減見てきて』と言われて、当時は湯と水を合わせて温度調整をするタイプだったため、熱いお湯に手を突っ込んで火傷をしたんです。それを親は後ろで見ていたけど、あえて注意してこなかった。なぜなら、自分で触って感じないと分からないから。触る前に『ダメ!』って言われると子どもは萎縮します。それならケガもしないけど、なんで怒られたかは実感として理解できない。ところが、自分で失敗した後に『どうだった?』『熱かった?』と言われれば、自分がなぜ失敗したかが実感として分かる」
 そのうえで、「湯加減を見るときは、まず軽く触ってから~」みたいにやり方を教えられれば、その次は気を付けようと思うし体験として忘れない。そういう風に、「自分で気づく」という教育を受けたことが、自身の人格形成に大きな影響を与えていると同氏は語る。「確かにはたから見れば相当ヤンチャでしたよ。親も止めないし(笑)。でも、何かあれば親が責任を持つという教育方針でしたね」

■プロ野球選手だった父の大変さを、アニメ『グラゼニ』で表現したい!

 そうやって子供時代に“失敗”を経験させてもらえたことが、他人と比べて自分のアドバンテージになっている部分もあると福嗣氏は述懐する。
 「今、ここでこうしたらどうなるのかな? ってよく思います。でも、それをすぐに実践しないのは大人としての理性があるから。その理性も、親にガミガミ言われて埋め込まれたものではないんですね。そういう育てられ方をしてないので。でも、こうやってちゃんと大人になれたのは、あくまで自発的に学んだことなんです。僕も子育てをしているから、子育てに正解はないってことは分かっています。でも、“落合家流”の子育てがベースにはなっています」

 “悪童”からプロ声優へと成長した福嗣氏のバックボーンには、“落合家の教育術”が色濃く影響していることが伺える。幼少期は父親とすれ違いの生活だった福嗣氏だが、だからこそ、プロ野球選手だった父の大変さは誰よりも分かっている。主演を務めることになったアニメ『グラゼニ』では、「いかにプロ野球がシビアな世界なんだと世間の皆さんにお伝えするのが、僕や作品関係者の目標」と、本作に掛ける思いは誰よりも強い。