KADOKAWA、前例のない大型合作への挑戦「リスクを上回る中国市場の魅力」

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唐の首都・長安の街そのものを再現した大規模なセットでの『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』メイキングカット

 巨大な製作費を投じ、中国ではほぼ全映画館での上映になる日中合作の大作として、両国の映画関係者の大きな注目を集めている『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』。今後の日中合作大型プロジェクトのロールモデルの1つとなるべく、新たな道をこじ開けるKADOKAWA 映像事業局・局長の堀内大示氏とチーフプロデューサーの椿宜和氏に、中国市場への進出について聞いた。

【画像】丸刈り染谷将太とホアン・シュアンがカメラを挟むメイキングカット

◆ほぼ全中国全土の劇場で上映。両国興行収入レベニューシェア

 近年、中国の映画市場は拡大の一途を辿っており、その規模は世界中から注目を集めるほどになっている。日本では、日中映画共同制作協定が締結に向けて順調に進んでいることもあり、この先の本格的な市場参入に向けた視線が一気に熱を帯び始めているなか、本作の動向は中国との関係性を見極める要素の1つとして、日本映画界からの大きな関心を呼んでいる。

「本企画は、日本・中国・フランスの合作映画『始皇帝暗殺』(2000年)で製作総指揮を務めた角川歴彦会長と、チェン・カイコー監督の人間関係が起点になっています。そこで次作の約束が交わされ、ちょうど今から10年ほど前に、実現に向けて具体的に話し合いが始まりました。初期の段階では、映画ビジネスが本当に成り立つのかという疑問もありましたが、企画を熟成している間に、中国で映画を娯楽として楽しむ人の数が格段に増えました。製作過程ではいろいろな難しさはありましたが、市場として"勝負になる"という思いは徐々に強くなり、やがて確信に変わりました」(堀内氏)

 過去にも日中合作映画はあったが、それらは日本の資金で、日本人スタッフが現地に赴き撮影をする形がほとんどだった。しかし『空海~』はこうした作品とは明らかに趣が違う。

「今回は製作委員会を組織し、日本と中国が共同で出資し合い、お互いに両国における興行への責任を持つ形で、全興行収入を資金配分でレベニューシェアします。役割としては、日本は夢枕獏さんの小説を原作として提供し、染谷将太さんを主演に。中国側はキャストのほか、監督、スタッフが撮影を行っています。ポスプロは中国で編集作業をし、CGや音響関係は日本で作業。なんども両国間で仕上げ作業を繰り返し、最終的な仕上げは中国という分担でした」(椿氏)

 このような座組から、必須である市場規模の大きい中国でのヒットが確実なものとなるよう製作が進められた。本作の中国全土での公開は、日中合作としても日本映画としても過去に例のない規模になる。「現在、中国の総スクリーン数が約5万で、ほぼ全中国全土の劇場で『空海~』が上映されることになります」(椿氏)

◆アジア市場をターゲットへ。実写日本コンテンツの強さ

 市場規模の大きな魅力を有する中国の映画シーンは、世界中からの注目が集まる一方、外国映画は年間公開本数が制限されるスクリーンクォータ制が導入されており、公開までのハードルが高い。そんななか、日中合作は中国国内映画の位置づけになり、公開本数の縛りを受けないため、参入への意欲は高まりそうだ。しかしその一方で、16年末から17年にかけての政情からの韓国コンテンツの締め出し対応を見ると、その部分の不安は拭えない。

「確かにリスクはありますが、それを上回る市場の魅力があります。そう感じられるようになったのは、ここ2~3年の話ですが。17年製作の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、高く評価されて良い条件で配給契約を結ぶことができ、18年早々に中国公開されます。それとは別で、中国国内でリメイクもされ、17年12月に公開されています。これは東野圭吾さんの原作が中国でも800万部を超える大ベストセラーになっていることが要因として挙げられます。外国で仕事をする以上、政情不安は多かれ少なかれつきまとう問題ですが、そのなかでも中国は、日本コンテンツが受け入れられる下地と市場規模の魅力があります」(堀内氏)

「弊社出版物として、ライトノベル系は世界中で受け入れられていますし、一般向け小説は、韓国、中国、タイ、香港、台湾などで人気があります。これからは国内向けのメディアミックスだけではなく、アジアを含む海外向けに映画製作をするという戦略は当然あります。弊社の場合、映像と出版物の合算での成果という考えがあるので、柔軟に対応していける利点もあります」(堀内氏)

 これまでは人気漫画や小説の実写化は、日本国内向けに製作されることがほとんどだったが、そこでのヒット規模が縮小傾向にあるいま、中国を含むアジア市場での日本IPのポテンシャルを見ると、そういった国との合作を1つの選択肢として、はじめから全世界をターゲットに製作することにより、より大きな収益を上げていくことが今後の戦略になるのではないだろうか。
(文:磯部正和)