ピクサーのレジェンドに聞く 次々とヒット作を世に送り出す秘けつは?

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ディズニー/ピクサー最新作『インクレディブル・ファミリー』(8月1日より公開中)スーパーバイジング・テクニカル・ディレクターのリック・セイアー氏 (C)ORICON NewS inc.

 おもちゃの世界を描いた『トイ・ストーリー』(1995年公開)をはじめ、さまざまな世界をファンタジーワールドに変えて世界中の人々を魅了してきたピクサー・アニメーション・スタジオ。8月1日から劇場公開されている『インクレディブル・ファミリー』(ブラッド・バード監督)は、ピクサーの長編20作目にふさわしい超大作だ。日本に先駆けて公開された全米では、『アナと雪の女王』や『トイ・ストーリー3』を抜き、アニメーション作品史上歴代No.1を記録するヒットとなっている。そんなヒット作を毎回世に送り出し続けるピクサー・アニメーション・スタジオの秘密を探った。

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 米カリフォルニア州エメリービルにあるピクサー・アニメーション・スタジオ。1986年2月、スティーブ・ジョブズらがルーカスフィルムの子会社インダストリアル・ライト&マジックのコンピュータ関連部門を買収し、「ピクサー」と名付けて独立。もともとテクノロジー会社だったピクサーに87年加入し、実験的な超高解像度画像処理の仕事にあたった「レジェンド」の一人が、リック・セイアーさんだ。

 「もう31年になりますね。入社当初のピクサーはとても小さかったです。僕らが作ったハードウェアで『ピクサー・イメージ・コンピューター』というものがあったんです。それは、オプティカル・プリンティングに代わるもので、ビジュアル・エフェクトの一部でした。だから、会社の初期は、ビジュアル・エフェクトのために作られたハードウェアから、何か別のものに移行しようとしていたわけです。初期の頃は、その他の何か、というのが何なのかを考えようとしていたんです」。

 ピクサー・イメージ・コンピュータの販売促進のため、デモンストレーション短編CGアニメーションを制作していたジョン・ラセターは、86年に短編CGアニメーション『ルクソーJr.』を発表。ピクサー作品のオープニングロゴに必ず登場する電気スタンドのキャラクター「ルクソーJr.」が生まれた作品だ。88年に発表した短編CGアニメーション『ティン・トイ』はアカデミー賞で短編アニメーション賞を受賞。業績が芳しくなかったピクサー・イメージ・コンピュータ部門を1990年に売却。その後、CG長編アニメーション映画の制作でディズニーと契約を結び、95年に長編第1作『トイ・ストーリー』が公開。大ヒットを飛ばして、アニメーション会社へと変貌を遂げるだった。

 セイアー氏は『トイ・ストーリー』から、『バグズ・ライフ』、『モンスターズ・インク』、『レミーのおいしいレストラン』『アーロと少年』といったあらゆるピクサー作品にクレジットされているだけでなく、ブラッド・バード監督による初めてのピクサー映画『Mr.インクレディブル』でスーパーバイジング・テクニカル・ディレクターを務め、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』や『トゥモローランド』といった実写映画でもバード監督と仕事をしている。

 「『Mr.インクレディブル』は、僕らが映画全体にわたって人間のキャラクターをアニメートした初めての作品でした。そして、僕らがやっていたことのほとんどは、それまでに誰もやったことがない、新しいチャレンジばかりでした。

 最新作の『インクレディブル・ファミリー』では、初めてのことはほぼなくなっていました。『メリダとおそろしの森』のために開発したアニメーション・システムがありましたし、『ファインディング・ドリー』から始まったレンダリングや照明のテクノロジーもありました。そして、そのツールを使った経験のあるスタッフたちがいました。経験があるということは、何かをしようとするのに、そんなに悪戦苦闘しなくで済むというでもあり、よりクリエイティブなことにエネルギーを使うことができたと思います」。

 『Mr.インクレディブル』製作当時には不可能だったが、本作では実現させることができたことが多々あったという。

 「前作では、カメラをほんの少しでも動かせば、多分、何も描かれていない真っ白なところが見えてしまったと思います。それが、当時の僕らの限界でした。今作では3Dの街をまるごと作って俯瞰で見せたり、その中を一人ひとり描き分けられたキャラクターが動き回ったり、目的に応じて自在にそれを使いこなし、本当に人々が暮らしているように感じてもらえるようにしました。

 ヴァイオレットのストレートの長い髪が自然に揺れる感じを表現するのも、『Mr.インクレディブル』ではほとんど不可能でした。ダッシュの走る様子にしても、今作では速く動くだけではなくて、その中にしっかりとした重さを感じられる表現がなされています」。

 セイアー氏は社内屈指の古株だが、ピクサーには比較的長く勤務し、熟練したスタッフが多いことも、短期間に高品質の映画を世に送り出すことを可能にしているという。さらに若い世代のスタッフにも期待を寄せる。

 「僕が願っている未来は、もっと多くのアニメーション作品が、ジャンル以上のものとして受け入れられていること。日本では、子ども向けから大人が楽しむものまで、コメディーもあればシリアスなものもあって、さまざまなストーリーがアニメーションで語られていますが、それはとっても素晴らしいことだと思います。ピクサーももっと、このストーリーをアニメーション化するの?と、思われるようなユニークで興味深い作品にも挑戦していくべきだと思っています。

 今の若い世代のスタッフたちは、僕らの世代が、技術開発に費やした時間を別のことに使える。もっと自由な発想で、既成概念にとらわれず、アニメーション映画の世界を広げてくれるんじゃないかと、期待しているんです」。