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  【 慧日寺悠久の千二百年TOP 】
ー  みちのく正倉院 白銅三鈷杵(上)  ー
 
 超一流の古式密教法具

 『新編会津風土記』の編さんにあたって、藩では地志方を設け、基礎資料蒐集(しゅうしゅう)を目的として領内各町・郷村に対し地志編集(ちしへんじゅう)書き上げの提出を命じている。

 慧日寺のあった大寺村でも、享和3(1803)年に「地志扁集」がまとめられているが、その中には、当時慧日寺にあった寺宝・什物(じゅうもつ)が事細かに列記されている。

 それからおよそ60年後、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の大害を被(こうむ)り、行方の知れなくなってしまったものも多い中、この「地志扁集」は近世慧日寺の遺宝を伝える貴重な「資財帳」といえよう。

 少々煩雑(はんざつ)になるが列記してみる。丈六薬師如来・脇士日光菩薩・同月光菩薩・十二神将之内二躯・大黒天・賓頭盧尊(びんずるそん)・胎蔵界・金剛界・仏性寺磬・宝剣・鑓・如蔵尼之鏡・瑪瑙尺(るりじゃく)・弘法大師御筆御影・同筆般若十六善神・同筆五大尊・同筆不動尊・同筆十三仏・同筆愛染(あいぜん)・同筆毘婆娑(びばしゃ)・弘法大師御所持天笠蓮実念珠・同三鈷・同独鈷・得溢(とくいつ)御所持念珠・銅ノ印・白川法皇御筆十二天・御花園院筆歌書・菅相丞(かんのしょうじょう)御筆(おんふで)の請雨経(せいうきょう)・当麻中将姫御筆法華経・弁慶筆大般若経・当山往古絵図・縁起保科中将正之公・得溢氏性記・古法眼筆・弘法大師御筆四所明神・雪村筆山水・同鷺之絵・月山刀・牛羊玉・得溢御所持大錫杖・富士絵・涅槃妙心宮(ねはんみょうしんぐう)之法師筆・橋姫明神・如意輪観音・千手観音・不動尊・竜像権現・秘仏薬師如来等々。個々の来歴の真偽は別にしても、仏像・仏画・仏具・経典類など、さすが大寺の貫録を伝えるものが多い。

 その中でも特筆すべきものは、何といっても国の重要文化財にも指定されている密教法具の白銅三鈷杵(さんこしょう)であろう。この三鈷杵は、3つの鈷が平行して伸び、鈷の先端に逆刺しが付くもので、装飾性が乏しい古式の形状から、俗に忿怒形ふんぬがた三鈷杵と呼ばれている。

 その類例として形を留とどめるものは、慧日寺所蔵品を含めて現在わが国に6口しかない。すなわち、正倉院に納められている2口の伝世品ほか、奈良国立博物館所蔵品の一口。出土品としては奈良県大峰の一峰弥山みせん山頂と日光二荒山(男体山)山頂からそれぞれ1口が確認されているのみである。

 いずれも奈良時代から平安時代初期にかけての国家的な修法や祭祀さいしに関わる法具であり、まずもって超一級品であることが分かる。

 このような古式密教法具の優品が、遙かみちのくの一隅に伝わる背景を考えた場合、やはり徳一によって招来されたものと見る以外にはない。

 というのも、徳一は空海から書写弘通(しょしゃぐつう)を依頼された新しい密教の経論を精読した結果、11カ条の疑問を立てた公開質問状である『真言宗未決文(しんごんしゅうみけつもん)』を著しているが、巻末には「ここに述べた諸の疑問は、仏法を謗(そし)る行いであり、無間地獄(むげんじごく)に堕(お)ちる報いを招くことを恐れます。ただ私は疑問を解決して、明らかな智慧の理解を増したいと欲しているだけで、ひたすらに帰依し信じて、その宗を専らにしたいだけです。どうか同信のみなさん、この疑問によってかの真言宗を嫌わないで下さい」と記していることからも、密教を理解したいという希望をもっていたことは確かであって、決して空海の教学を非難したものではなかったのである。

 現に、密教は奈良時代にも盛んに行われており、ほとんどの密教経典はすでに奈良時代に日本に招来されていた。

 例えば、三論宗では大安寺の道慈が入唐して善無畏(ぜんむい)に密教を受け、わが国に奉じたと伝えられており、称徳天皇の発願によって製作された著名な百万塔の中にも百万塔陀羅尼(だらに)が収められていて、奈良時代の密教信仰を具体的に伝えている。

 このような時代背景を考えれば、彼がすでに南都において、真言密教確立以前のいわゆる「雑密(ぞうみつ)」を智徳していたことは明らかであり、入唐の機会を得なかった学僧徳一をして、新来の密教をも兼修したいという強い希望があったことは間違いない。

(磐梯山慧日寺資料館学芸員)

白岩賢一郎

【 25 】

白銅三鈷杵(恵日寺蔵)



【2007年9月26日付】
 

 

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