【 ストレスと向き合う(5) 】 "語る場"気持ち後押し

 

 「サザエさん、楽しみだね」。郡山市の佐久間香里(43)は昨年秋、テレビアニメを毎週心待ちにする長男一誓(いっせい)(6)が口にした何げない一言に、幸せを感じる自分に気付いた。

 主婦らグループ結成

 震災、原発事故後の3カ月間、北海道に自主避難した。戻った後も落ち着かない日々で、子どもの誕生日すら楽しめない時があった。

 小さな幸せを自覚できるようになるまでの気持ちの変化を後押ししたのは、同じ立場の母親たちの存在だ。一時自主避難した後に県内に戻った主婦らでグループを結成し、講演会などさまざまなイベントを開きながら、子育てや子どもの将来をめぐる思いを語り合っている。

 「放射線不安などを抱える親にとって、何の虚飾もない子どもの一言が無限の価値を持つ」。1月31日、郡山市のさんかくプラザ。佐久間らのグループが主催したイベントで、講師を務めた精神科医の小林恒司(46)がそう話すと、佐久間はうなずきながら聞き入った。小林は、放射線への不安で悩んでいる人などの相談に各地で応じている。

 小林は母親たちと同様に、小学校高学年程度の子どもにも日々の思いを語る場が必要だと感じている。「子どもは目の前の状況に敏感だ。除染の風景や、定期的な甲状腺検査をどのように受け止めているか、聞いてあげるべきだろう」

 震災後の事情を推測

 周囲の大人は、子どもの声に耳を傾けているだろうか。18歳までの子ども向けに電話相談を行う「チャイルドラインこおりやま」によると、県内からの発信数は2011(平成23)年度に約4800件、12年度は約1万3570件、13年度約1万7980件と急増した。チャイルドラインの周知が進んだという要因もあるが、理事長の大岡桂子(61)は「大人が余裕をなくし、子どもが周囲に相談しにくいことが背景にあるのかもしれない」と震災後の事情を推測する。

 佐久間はこれまでの活動を通じて、語り合うことの大切さを再認識した。「今後は、子どもの心の問題など困難な現実に直面しても、目をそらさず対応したい」。親子で乗り越えていこうと考えている。(文中敬称略)