【 ストレスと向き合う(6) 】 自分の思いを言葉に

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【 ストレスと向き合う(6) 】 自分の思いを言葉に

スタッフと打ち合わせをする蟻塚院長。生活再建が、被災した子どもの心のケアの前提になると言う=1月13日、相馬市・メンタルクリニックなごみ

 「あの時、私が手を離したせいで○○先生が死んじゃったんだ」

 子どもの心の健康をテーマに1月10日、郡山市で開かれたシンポジウム。岩手県にある「いわてこどもケアセンター」の副センター長八木淳子(46)は、トラウマ治療をした、ある女児の症例を紹介した。

 八木によると女児は震災の日、延長保育で残っていた保育園で被災。保育士らと手をつないで避難する際、津波にのまれ、保育士の手が女児から離れた。女児はその時の思いを、震災から2年3カ月後の初診の際に初めて口にする。娘との会話でそのことに触れていいのか判断できず、家族は一度も聞いてこなかった。

 「そっとしておく」周囲

 「震災で子どもが喪失体験、悲嘆の問題を抱えた時、周囲の大人は『そっとしておく』という対応を取ることが多い。子どもを思ってのことだが、それによって子どもは、自分の思いを言葉にする機会を完全に失う」

 八木は、子どもが震災体験をめぐり「間違った理解」をしていないか、周囲の大人が注意を払うべきだと言う。「震災の苦悩を話せるほど、精神的に安定してきた子どもも多い。向き合いを促すことも時には必要だ」

 子どもたちが震災、原発事故で抱えたトラウマへの注意が必要なのは本県も同じ。だが、震災を受け2013(平成25)年5月にいわてこどもケアセンターが開設された岩手県や、以前から子どもの心をめぐる医療体制が恵まれていた宮城県と比べ、本県は児童精神科医などの専門家が極端に不足しており、体制の充実を求める声も上がる。

 相馬市のメンタルクリニックなごみ。院長の精神科医蟻塚亮二(67)は震災後、心の傷がもとで3カ月間の記憶をなくした少女を診たことがある。未成年の患者は少なくない。「子どものころのトラウマ体験は将来重症化する恐れもある。震災トラウマと徐々に向き合うことが大事」と蟻塚も感じる。

 前提となる生活再建

 生活再建が、その前提になると考える蟻塚は、こう続ける。「今が納得できる生活、肯定できる生活でなければ、過去のトラウマを乗り越えることはできない。被災地の心のケアの最終目標は、例えば『仮設住宅から出ること』にほかならない」(文中敬称略)