【 地域へのまなざし(1) 】 周囲を幸せにしたい

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 「それじゃ、いくよ」。指揮者の呼び掛けで、弦楽器を手にした未就学児から高校生までの視線が、指揮棒に集まる。2月22日、相馬市の道の駅そうま体験実習館。同市の子どもでつくる「相馬子どもオーケストラ」が全体練習に臨んだ。バイオリン担当の清信(きよのぶ)有佑(ゆうすけ)(12)は「演奏で地域の人たちに喜んでもらいたい」と、練習に熱を入れる。

 同市で復興支援事業に取り組む「エル・システマジャパン」が組織するオーケストラ。貧困など困難を抱えた子どもたち向けに南米ベネズエラで始まった音楽教育「エル・システマ」の手法を用いて、震災と原発事故の影響を受けている子どもたちに人生を自ら切り開く「生きる力」を培ってもらおうと、2012(平成24)年に設立された。

 「自尊」の感情高めて

 代表を務める菊川穣(44)は、子どもたちに「自尊」の感情を高めてほしいと考えている。背景にあるのは、被災地特有の事情だ。

 被災地には国内外から、多くの支援が寄せられている。「ありがたいことだが、子どもたちには、いつも(支援への)お礼ばかり言っているような『受け身』の状況も生じた。してもらうばかりではなく、『自分が周囲を幸せにできる』と音楽を通じて実感し、自信につなげてほしい」と菊川は語る。

 3月1日、相馬市民会館で開かれた第1回エル・システマ子ども音楽祭。チャイコフスキー作曲「くるみ割り人形−花のワルツ」の優雅な調べが館内に響き渡った。

 「成長したなあ」。緊張した様子もなく演奏する有佑の姿を見ながら、母ひとみ(41)は思った。

 介護の現場で働くひとみ。南相馬市や飯舘村からの避難者の流入で介護利用者は急増し、震災から4年たった今も忙しさは続く。

 ひとみは、地域住民ら約700人で満員となった客席を見ながら、震災、原発事故を受けて多忙を極める大人たちを元気づけているのは、子どもたちにほかならないと再認識した。

 菊川が音楽教育に取り組むきっかけになったのは、相馬市教委が11年11月に開いた「ふるさと相馬子ども復興会議」で、ある小学生が発表した作文だ。

 〈相馬市の復興は、これから20〜30年はかかることと思います。それは、私たちの人生そのものでもあります〉

 復興期間中に大人に

 復興に必要な期間がそのまま、子どもたちが大人になる期間に重なる--。長期的な取り組みの必要性を、菊川に痛感させた言葉だ。

 「震災後の4年間、楽しいことも、悲しいこともいっぱいあったけど、地元が好き。相馬を元気にしたい」。そう話す有佑の夢は、看護師になること。母のように、相馬の医療福祉を支えたいと考えている。(文中敬称略)