【 被災をバネに(6) 】 「世界へ」視野広がる

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【 被災をバネに(6) 】 「世界へ」視野広がる

渡米に向けて、インターネットを利用して英語を学ぶ佐藤さん

 「いつまでも下は向いていられない。世界を巻き込んで(復興に)取り組みたい」。磐城高を今春卒業した佐藤陸(18)は、フランス・パリのエッフェル塔の下に広がるシャンドマルス公園で昨年8月、集まった聴衆に思いをぶつけたことを振り返る。本県の高校生らがパリで東北の魅力を伝えたイベント「東北復幸祭」での一幕。その経験を胸に、佐藤は今夏、米国の大学に進学する。

 フランスでの経験

 東北復幸祭は、福島大や経済協力開発機構(OECD)による教育プログラム「OECD東北スクール」が企画した。風評被害の払拭(ふっしょく)に向けて、国内外への情報発信を強めることが目的の一つだった。佐藤は事業のスタート時から参加していて、その必要性を痛感した。

 東北復幸祭から約1年前、佐藤らは東北スクールの一環でフランスを視察した。そこで感じたのは「何も知らない人がこんなにいるのか」ということ。福島の位置関係が分からない人、日本全体が放射能で危険と考える人。佐藤は被災者の立場で正しい情報を伝えようとしたが、準備不足や言葉の壁でうまく伝えられなかった。

 この体験から、東北復幸祭では、単に主張するのではなく「相手にどう伝えるか」を考えた。目の前に津波が押し寄せた体験。古里に戻れない避難区域の現状。英語とフランス語で、丁寧に訴えた。発表後、観衆からは総立ちでの大きな拍手で迎えられ、涙を流す人もいた。佐藤は「伝え方で、こんなに反応は違うのか」と実感した。

 「思いを伝えたい」

 「外に向けて情報発信することで、心の傷を受けた被災者が前向きに進む原動力になった」。スクールの統括責任者を務めた福島大副学長の三浦浩喜(54)は、スクールの意義を別の側面から語る。三浦は、他地域や他文化と触れることが子どもたちの好奇心を高め成長を促すことを実感、それが進路にもつながっていくことをあらためて考えた。

 異国の地での経験が、佐藤の視野を広げた。米国の大学では国際関係学や地域社会学を学び、世界の中の日本の役割や地域の構造などを知りたいと考えている。どんな仕事に就くか、目標はまだ決まっていない。ただ、佐藤は「どんな場所でも被災者の思いを伝えていきたい」と思う。 (文中敬称略)