【 福島市・奥土湯 】 洞窟風呂...まるで『炭鉱』 高い保温効果魅力

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職人が手掘りで造った半分露天、半分洞窟の珍しいお風呂。湯量も豊富でゆったりと入れる

 洞窟ならではの圧迫感が心地よい。湯気で煙る岩肌を眺めながら、そう感じた。

 福島市中心部から西へ車で約30分。見慣れた土湯の温泉街を通り抜けて山道を上ると、奥土湯の一番奥に「川上温泉」が見えてくる。標高480メートル。社長の阿部義輔さん(76)が集めた珍しい「冬虫夏草」のコレクションが、純和風の館内にマッチしている。

 名物の「半天岩窟(はんてんがんくつ)風呂」は半分が露天風呂、もう半分が洞窟風呂の構造で、洞窟の奥行きは6メートル。深さは0.85メートルとたっぷりで、底は青森ヒバでできている。

 洞窟風呂が造られたのは1989(平成元)年。温泉ブームの高まりを受け、それまでになかった露天風呂を整備することになった。職人が1年半かけ、手掘りも交えて造り上げたという。炭鉱を思わせる独特の雰囲気に、かつては「1人で入るのは怖い」と話す女性客もいた。

 「どんどん汗が出る。お湯が豊富でリラックスできる」。長寿会の仲間と洞窟風呂に入った同市土湯温泉町の徳永慎一さん(84)は、額を拭いながら話した。無色透明の湯につかった後は「汗が止まらない」との声が寄せられ、保温効果の高さも魅力という。

 ただ、温泉の特徴というのは簡単に語り尽くせるものではないようだ。阿部社長の長男俊英さん(51)は「温泉はその日の気温や湿度、降水量に応じて成分が変わる。一番風呂はピリピリした感じで、人が入るにつれ滑らかになっていく」と説明しながら、付け加えた。「温泉は生き物。不思議なんだ」

 阿部家の先祖がこの地に来て以来400年。59年前の磐梯吾妻スカイライン開通に伴う好況、原発事故に伴う風評被害という困難―。社会情勢に左右されながらも、湯けむりにひかれる人々を変わらず受け入れてきた。

 ◆スタイルが定着

 川上温泉に到着した宿泊客が部屋に入ると、すでに布団が敷いてある。昔は毛嫌いされたが、今は好評だという。長距離運転に疲れた客は、到着するなり風呂に入って一眠り。夕食を食べて、酒を飲んで寝たり、もう一度風呂に入ったり。「川上温泉スタイル」が定着した。

 県外からの宿泊客は千葉、茨城両県の人が多い。「海が近い地域の人は、山あいの温泉にひかれるのだろう」と俊英さん。一方で、市内から毎日のように日帰り入浴に訪れる人も少なくない。

 俊英さんは言う。「遠方から訪れる宿泊客にとって旅館はハレ(非日常)の場だが、毎日のように来る人にとってはケ(日常)。車にいつもタオルを置いていて、ふらっと温泉を訪ねるような人、福島には多くいますよね」

 ハレであり、ケでもある。時代を超えて、訪れる人の人生のさまざまなシーンを彩ってきた温泉宿の魅力について考えながら、静かに湯につかった。

 【メモ】奥つちゆ・秘湯川上温泉=福島市土湯温泉町字川上7。泉質は単純泉。半天岩窟風呂は日替わり男女入れ替え制。日帰り入浴可(午前9時~午後9時、金曜日は午後3時~午後9時)。

福島・奥土湯

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〔写真〕かわいらしいこけしが並ぶ土湯伝承館