【 石川町・猫啼温泉 】 和泉式部との絆が伝説に 猫ブーム受け注目
阿武隈高地の西側、石川町の桜の名所として知られる今出川沿いにある温泉地。町中心部のJR水郡線磐城石川駅から車でわずか3分ほどの自然に囲まれたのどかな場所にある。
「猫啼(ねこなき)」。空前の猫ブームらしい。どちらかというと「犬派」の記者でも気になる地名は、この地に生まれたとの伝説が残る平安中期の女流歌人、和泉式部に由来する。里に湧く清水で顔を洗い、髪をとかし、美しい乙女に成長した式部。美しさが広く伝わり、上京することになったが、愛猫「そめ」は取り残されてしまう。そめは式部を慕い、啼き続けて重病になるが、泉に浴しているうちに病は癒え、美しい姿に。それを見た里人たちは泉の効能に気付き、「猫啼」と名付け湯治場にした―。
「猫好きの方が調べて来訪されることもあります」。そう教えてくれたのは温泉宿の一つ「式部のやかた 井筒屋」の7代目溝井吉一さん(41)。フロントに置かれた、かわいらしい招き猫とともに笑顔で出迎えてくれた。
最近は猫の雑誌にも取り上げられる井筒屋は1869(明治2)年創業の老舗。古くから湯治客でにぎわってきた。1992(平成4)年に完成した5階建て本館のほかに別館もあり、温泉は大浴場と露天風呂。泉質は単純弱放射能冷鉱泉で、主に腎機能改善に効果があるとされる。客層は関東圏からの家族連れや夫婦らが多く、都会の喧騒(けんそう)を離れ、落ち着いた時間を過ごしている。
◆作家たちを魅了
神秘的な猫啼温泉の伝説は、近現代の作家たちも魅了した。3月に亡くなった内田康夫のミステリー「十三の墓標」や、NHK大河ドラマ第1作「花の生涯」の原作で知られる舟橋聖一の「ある女の遠景」にも登場する。舟橋は執筆に際し取材でこの地を訪れ、井筒屋に宿泊した。館内に直筆の書が掲げられている。現在もこうした作家の熱心なファンが年に何人か訪れるという。
井筒屋は来年、創業から150年。吉一さんの父で6代目の清一さん(66)は「紆余(うよ)曲折あったが、古くからの湯治場としてお客さんがお客さんを呼び、少しずつ前に進んできた」と振り返る。大火などの苦境を乗り越えながら代々継承され、式部伝説の残る宿として新たなファンも増やし愛されている。
敷地内のひっそりとした一角には、式部が櫛(くし)を置いていたとされる「櫛上げの石」がある。美しい式部の姿に思いを巡らせ、ロマンをかき立てられつつ大浴場に向かうと、湯気の中に式部とそめのタイル絵を見つけた。
ぴったりと式部に寄り添うそめと、そめを優しく見つめる式部。「恋多き女性」とも称される式部の別の顔を見た気がしながら、じっくりと湯を堪能した。
【メモ】猫啼(ねこなき)温泉「式部のやかた 井筒屋」=石川町字猫啼22。日帰り入浴可(午前9時~同11時30分、午後0時30分~同7時)。
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【「ふくしまの水三十選」の一つ】石川町内にはほかにも和泉式部伝説ゆかりの地がある。猫啼温泉から車で約10分、曲木地区にある湧き水「小和清水」。「玉世姫」としてこの地に生を受けた式部が産湯を浴びた―との言い伝えが残っている。現在は子育て、子宝の霊水として親しまれ、「ふくしまの水三十選」にも選ばれている。頂上にはあずまやがあり、周辺の四季折々の景色を眺めることもできる。地域住民主体で環境美化活動なども行われている。
〔写真〕和泉式部伝説ゆかりのスポット「小和清水」
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