【 いわき市・蟹洗温泉 】 守り抜く『海ある景色』 湯船で初日の出

 
太平洋を一望できる大浴室。施設が24時間開放される元日の朝は、このように水平線から姿を現す初日を眺めることもできる

 太陽に照らされ、光り輝く広大な太平洋を望みながら、のんびり湯につかる。いわき市の四倉海岸北側の、いわき蟹洗(かにあらい)温泉にある太平洋健康センター蟹洗温泉は、そんなぜいたくなひとときを与えてくれる。弱アルカリ性のお湯は肌に優しく、露天風呂や寝湯など充実した入浴施設と宿泊部屋も備える。幼児から高齢者まで年代を問わず、大きな湯船でゆっくりとしたくつろぎの時間を過ごす家族連れなども多い。

 副支配人の菅原央司さん(48)が施設の「売り」である景色を楽しめる場所を案内してくれた。ロビーの階段を上がると、2階には広々としたサロンが設けられ、窓の外に雄大な海が広がる。胸がすくような景色だ。「お客さまから『海の上に浮かんでいるみたい』と喜んでもらえます」と菅原さん。なるほど、サロンから海を眺めると、航海中の船のデッキにいるかのような気分になる。

 このサロンのほか、食堂や露天風呂、宿泊部屋など施設内の至るところから海を眺めることができる。菅原さんによると、最もにぎわうのは年末年始だという。大みそかは入浴施設が24時間開放されることもあり、湯につかりながら初日の出を拝もうと、毎年、宿泊予約が殺到するという。

 ◆住民再会の場に

 「あそこが『蟹洗』という名前の由来の場所です」。菅原さんの指さす方向を見ると、浅瀬に密集するごつごつとした岩場があった。この岩場に集うカニが、いわきの海岸特有の大波に洗い流される様子から名付けられたとされている。大正時代初期ごろまで、近くの鉱山から採れた鉄鉱石を洗っていたことから「金洗」と呼ばれていたが、時代の流れとともに「蟹洗」と呼ばれるようになったようだ。

 施設は2011(平成23)年3月11日の東日本大震災で発生した津波で被災した。浴室や食堂があった1階が壊滅的な被害を受け、13年7月まで休業を余儀なくされた。そして再開に際しても障壁があった。被災沿岸部で行われた県の防潮堤復旧工事で、堤防の高さを7.2メートルまでかさ上げして設けることになった。防潮堤が完成すれば、自慢の景観が変わってしまう。県は施設側の要望に応える形で、施設周辺の堤防を透明なアクリル板を活用した透光パネル型で整備した。「正直、難しいと思っていたが、柔軟に対応していただいた」と、菅原さんは感謝する。

 再開から今夏で丸5年。お盆や正月になると、避難先から訪れる双葉地方の住民も少なくないという。「ロビーで偶然再会して喜び合う姿なども見掛けられ、存在意義を改めて感じた」と菅原さん。温泉施設としてだけではなく、避難する住民の再会の場としての役割も実感したという。

 波音に耳を澄まして湯につかると、心も洗われるような気分になった。

 【メモ】太平洋健康センター蟹洗(かにあらい)温泉=いわき市四倉町6の164の2。一般入泉料金(午前10時~午後11時)大人2000円、小人1000円(税込み)。深夜割増料金あり。

いわき市・蟹洗温泉

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 【道の駅に並ぶ地元海産物】蟹洗温泉のほど近くにあるのが道の駅よつくら港。いわきならではの水産加工品や地元産野菜が並ぶ。お薦めはいわき名産のメヒカリを薫製にしてオリーブオイルに漬けた「メヒカリのオリーブオイル漬け」(600円)。そのまま食べてもよし、アンチョビー代わりにパスタに入れてもよしの優れものという。このほか、サンマやサバのみりん干し、カツオのあげひたしなど干物の種類も豊富。2階のフードコーナーでは旬の魚介類を使った海鮮丼や海鮮釜飯、ウニ釜飯などを味わえる。営業時間は午前9時~午後6時。

いわき市・蟹洗温泉

〔写真〕水産加工品や地元産の新鮮な野菜が並び、魚介類を使った料理も楽しめる道の駅よつくら港