【 会津坂下町・津尻温泉 】 滝がくれる涼の妙味 常連お目当ての音

 
豪快に流れる滝を眺めながら、ゆったりと温泉につかるぜいたくが味わえる

 「滝」の名を冠する温泉は数多くあれど、実際に滝がある温泉はどれほどあるだろうか。津尻温泉「滝の湯」は、滝を眺めながらお湯につかるぜいたくを楽しめる。会津盆地の西部、会津坂下町の中心部から喜多方市山都町方面へ車を15分ほど走らせると、その小さな宿は見えてくる。

 山際の静かな田園風景の中、目印の赤い屋根の建物がひっそりとたたずむ。滝は建物の裏手に二つあり、10メートルはゆうに超える崖の上から、近くの阿賀川へ注ぐ小川の水がザーザーと豪快に流れ落ちている。

 滝の名は伝わっていないが、昔から地元の人や文士には知られた場所だったようだ。江戸時代、会津の学問普及に貢献した学僧無為庵如黙(むいあんにょもく)はこの滝を見て、「むすぶ手の雫(しずく)も涼しいろいろに―中略―むすびそめにし滝の白糸」と歌を詠んだと言われている。

 新緑と木漏れ日の中、滝の音は心地よく、博学の僧が歌を詠まずにいられなかったのもうなずける。常連客がお目当てにしているのもこうした雰囲気で、「『滝の音が聞こえる温泉を気に入っている』と話す人は多くいます」と女将(おかみ)の上野芳子さん(70)は笑顔を見せる。

 ◆雪解け早い場所

 津尻温泉の誕生は、今から150年以上前の幕末のころ。地元・津尻の上野伝右エ門氏が、ほかより雪解けが早い場所を見つけ調べると、温泉が湧き出ていたと伝わる。明治時代に入ると、伝右エ門氏の息子伝七氏が源泉近くに小屋を建て、村人を入浴させていたという。

 洪水被害が相次いだことなどから、温泉は一度途絶え、源泉の場所も分からなくなってしまった。しかし第2次世界大戦後、こうした話を伝え聞いていた伝七氏の孫、進氏が滝の近くで源泉を掘り当て、1949(昭和24)年に温泉を復活させた。これが「滝の湯」の始まりだ。

 28度の源泉を42度まで加熱した塩化ナトリウム泉。薄く緑がかったお湯は、かんきつ系のような香りがする。肩までつかると体の芯まで温まり、心身ともにリラックスできる。神経痛や冷え症などに効能があるとされ、遠方から足を運ぶ人もいる。

 ◆震災が結んだ縁

 家庭的な雰囲気の館内で目を引くのは、ロビーに飾られたつるし雛(びな)や、布で作られた六地蔵。東日本大震災で同温泉に避難していた葛尾村民から贈られたことをきっかけに展示を続けているという。当時避難していた人が、今でも年に数回温泉に入りに来るといい、上野さんは「今も交流が続いていることに不思議な縁を感じます」と話す。

 市街地からほど近い場所にある温泉だが、その趣は山奥にある「秘湯」と比べても遜色ない。温泉につかって体を温めながら、流れ落ちる滝の風景や音に「涼」も感じ、しばし時が過ぎるのを忘れた。

 【メモ】津尻温泉「滝の湯」=会津坂下町津尻字下川原255の2。日帰り入浴可。名物料理は「鯉(こい)のうま煮」。

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 【会津木綿の小物が充実】津尻温泉から車で東に約10分。会津坂下町の旧広瀬小の隣に、「会津木綿」の魅力を発信する拠点「IIE Lab.(イーラボ)」がある。ストールやハンカチなどの商品が購入できるほか、会津木綿の作業工程も見学できる。ストールなどのほか、あずま袋やお酒を入れるボトルバッグなど約20種類が並ぶ。会津木綿の伝統を生かしつつ、普段づかいしやすくデザインされた商品が人気を集めている。営業時間は午前10時~午後5時(冬季は午後4時まで)。水曜定休。

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〔写真〕会津木綿の商品が並ぶイーラボ