【 大玉村・大玉温泉 】 手間惜しまぬ『豊かさ』 温度へのこだわり
昼夜問わずに店は開き、便利な生活が浸透している現代において、この温泉宿は「温泉とは何か。そして豊かな生活とは何か」を考えるきっかけとなるのかもしれない。
自然が残り、日本で最も美しい村連合にも加盟する大玉村。本宮市中心部から車を30分弱走らせれば安達太良山を望む、こだわりの温泉宿「金泉閣」に到着する。
大玉村に温泉街はなく、それぞれが源泉を持って温泉を提供する。大玉村の温泉の歴史はそう古くはない。金泉閣は1986(昭和61)年創業。かつては源泉の温度が低く沸かしていたが、約20年前に新たな源泉の採掘に成功した。約1200メートル掘り進めた源泉の温度は約60度で泉質はナトリウム炭酸水素塩泉。柔らかな肌触りのお湯は美人の湯としても多くの人に知られる。
宿に入ると、まず目の前にロビーを突き抜ける樹齢300年を超すハナの木。その迫力に圧倒されていると、主人の臼井祐一さん(58)が出迎えてくれた。
自慢は源泉100%掛け流しの温泉。「お客さまに良い温泉を楽しんでもらいたい」と温度を調整して準備するが、その手間、こだわりにも圧倒された。湯を張るために要する時間は、冬は10時間、夏は15時間。加水による温度調整は絶対にせず、定期的に湯温を自分の手で確認する。「自然のリズムに合わせて、無理がないように」
湯を思い、人をつなぐ。そんな気持ちから「湯つなぎ」という造語を好む。掛け湯をして、清涼な湯を後人につなげるという意味でもある。
◆自然に溶け込む
受け入れる1日の入浴人数を聞き、驚いた。男女それぞれ10人ずつ。さらに露天は混浴だが、知らない男女が一緒になることはない。臼井さんが事前に調整して、家族風呂のように楽しんでほしいとの配慮だ。内湯も浴槽は男女各一つながら、温泉の流れから近い順に温度が異なる。
お目当ての露天風呂に向かうと、途中、道脇に多くの草花が植えられていることに気付く。春はクマガイソウ、夏はサワギキョウなどが楽しめるという。混浴といえど、更衣室は別。目の前に自然の岩肌を利用して造り上げられた露天風呂が姿を現す。奥には池も見える。「昔はコイがいたよ」と笑う臼井さん。冬には池に流れ込む岩間の水がしぶき氷となり、幻想的な風景が浮かび上がるそうだ。
まずは掛け湯。温度は40度ほどか、ちょうどいい。中に入ると、優しいお湯に体が包み込まれる感覚を覚える。「フー」と声を漏らし、たまらず空を見上げると晴れ渡る空に入道雲。周囲には緑が映え、自然に溶け込むような気持ちだ。
この湯の恩恵にあずかるために忘れてはならないことがある。この宿は宿泊の予約がなければ、浴槽を乾かすために湯は張らない。なので、「すぐ行ってすぐ入る」ということはできないのだ。便利が当たり前の今の時代、この「手間」が格別の時間に感じた。
【メモ】金泉閣=大玉村大山大皿久保110の5。湯を張っている時に限り、日帰り(湯つなぎ)事前予約1000円、事前予約なし1500円。素泊まり5550円(税込み)から。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【三日月のように流れる滝】金泉閣から車で約10分ほどにある遠藤ケ滝遊歩道。杉田川の渓谷沿いをのんびりと散策できる人気スポットだ。遊歩道の入り口から歩いて約30分ほどで三日月のように流れる美しい姿が見られる「三日月の滝」までたどり着く。前日に雨が降ったりすると水量も増し、とてもきれいに見えるという。ただ、一部で足場の悪い場所もあるため、注意が必要となる。
〔写真〕丸い形が特徴の三日月の滝
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