【 郡山市・三穂田温泉 】 『なじみの顔』集う場所 地元住民が8割

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庭園が望める露天風呂。柔らかな肌触りの湯が体を優しく包み込む

 郷土色満点の、のどかな風景の中に目指す宿はある。郡山市中心部を離れること車で約20分、一軒家の宿「やすらぎの宿 郡山三穂田温泉」が現れた。建物は素朴な雰囲気で横に長い木造2階建て。少しレトロ感が漂う宿のたたずまいからは「お帰りなさい」という声が聞こえてきそうだ。

 温泉は男女それぞれ、大浴場と露天風呂。疲れを癒やそうと庭園が望める露天風呂へ向かった。地下800メートルからくみ上げる源泉は53度ほど。空気にさらされ40度前後になった湯は、ついつい長風呂してしまうような心地よさがある。

 泉質は塩化物泉。少し粘着質のトロトロとした柔らかな肌触りの湯が体を優しく包み込み、解きほぐしてくれる。「夢心地」。まさにこの言葉が当てはまる。木々の緑と空の青とのコントラストが美しい情景に目を奪われながら、時間を忘れてしまいそうになった。

 宿の創業は1988(昭和63)年。創業当時から変わらないのは、地元住民の憩いの場になっていることだ。「昨日は畑で何しとった」「野菜採ってたら肩凝っちまった」。中広間では地元住民の世間話が繰り広げられる。座布団を枕に、湯上がりに寝転ぶ客の姿も。大広間では、地元の老人会によるカラオケ大会が開かれていた。

 利用者は地元三穂田地区の住民が約8割を占めるという。マネジャーの岡龍一郎さん(37)は「じいちゃん、ばあちゃんの交流の場になっていることが宿の特徴の一つ。少しでも近所の人と楽しい時間を過ごしてもらえるように居心地のいい空間を意識している」と話す。

 ◆カラオケ大人気

 日帰り入浴料は550円で、中広間の利用、大広間でのカラオケは無料だ。持ち込み制限もないため、それぞれおにぎりや飲み物を持ってきて昼間の農作業の疲れを近所の友人と話しながら宿で癒やす人も多いという。何も気にすることなく気ままに過ごせる「わが家」のような空間が地域から愛される理由だろう。

 「日帰り入浴でも一日居てくれていい。高齢化が進む中で地域には、この宿のような居場所が必要」と岡さん。従業員が「昨日は来なかったね。体調崩したかい」と客に話し掛ける場面もあった。創業からの「地域密着」が確かに根付いている。

 毎月1回開かれるカラオケ大会は宿の人気行事の一つだ。毎回定員いっぱいの約100人が集まり、それぞれ演歌や歌謡曲を歌って楽しむ。利用者の80代女性は「温泉とカラオケの組み合わせは最高。年寄りにとって、これ以上の幸せはない」と健康長寿の源を明かしてくれた。

 温泉から上がり、脱衣所で体を拭いていると、かすかにカラオケの音が聞こえてきた。千昌夫の「北国の春」だ。「あの故郷(ふるさと)へ帰ろかな―帰ろかな―」。温泉につかった満足感とともに、少し郷愁を誘われた。

 【メモ】郡山三穂田温泉=郡山市三穂田町駒屋字四十坦原16。日帰り入浴のほか、宿泊プランもある。

郡山市・三穂田温泉

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 【歳月が生んだ陸の松島】郡山三穂田温泉から車で約10分、郡山市逢瀬町の浄土松公園にキノコのような形をした巨大な石群「きのこ岩」がある。その美しい景観は日本三景の松島に似ていることから「陸の松島」とも呼ばれている。長い年月をかけて、強く浸食された部分が細く茎のようになり、キノコのような形の岩になったという。珍しい岩を見ようと県外から観光客も訪れている。

郡山市・三穂田温泉

〔写真〕浄土松公園内にある「きのこ岩」