【 喜多方市・熱塩温泉 】 瓜生岩子の『心』伝える 会津藩主も入湯
「喜多方の歴史と温泉を勉強しなさい」と、上司に諭され向かったのは、喜多方市熱塩加納町の「熱塩温泉」。名前から「熱くてしょっぱいのかな」と脳裏をよぎる。単純すぎる考えは入浴後、あまりに想像力が乏しかったことを謝罪したい気持ちに変わった。心を入れ替えてくれたのは、昔話の田舎に登場しそうな山や川、木に囲まれた温泉街の手前に建物を構える旅館・山形屋だ。
旅館に到着し、最初に目に付くのは、同市出身の社会慈善家で「日本のナイチンゲール」と呼ばれた瓜生岩子の銅像。出迎えてくれたのは岩子の親族に当たる若女将(おかみ)瓜生渚さん(32)。山形屋は熱塩温泉が始まったころとほぼ同じ約650年の歴史があるという。
熱塩温泉の由来は諸説あるが、約650年前に温泉街にある示現寺の源翁和尚が発見したという伝説が残る。大昔、会津盆地は陸地ではなく海だった。地殻変動で海水が盆地に浸透し、地熱で温められ、地表に塩辛い熱湯が湧き出したとされる。塩井もあったとの記述も残るが、1611(慶長16)年の会津大地震で埋没したという。江戸時代には会津藩主も入湯したとされる歴史ある温泉だ。
◆炭の効果に着目
若女将に大浴場と露天風呂を案内してもらう。湯は無色透明で柔らかな肌触り。ほのかな塩気を感じながら、ぜいたくな時間を楽しむ。露天風呂で外をのぞくと熱塩の雄大な景色を独り占め。最高だ。
塩の効果で体の芯から温まって館内を歩くと、大きな炭の存在に気付いた。炭はマイナスイオンを増やす効果などがあるとされ、旅館ではその効果に着目。炭の効能を紹介する場所や炭を使った日本初の炭床式低温サウナがある。
温泉の「塩」について聞こうと思った矢先だった。「熱塩温泉は昔、子宝の湯として有名だった。子宝の湯を目当てに来ていた人もいて、湯治場で親しまれていた」と若女将。確かに温泉街には入湯して子宝に恵まれた人がお礼に参拝する子育て地蔵がある。源泉は65度前後と熱く、泉質は塩化物泉。リウマチや更年期障害だけでなく、婦人病にも効くという。
若女将は「温泉には岩子も入っていたと思います」と話してくれた。岩子は9歳の時に父が急死したため、母の実家、山形屋に身を寄せた。旅館で働いてはいないらしいが、その後4人の子宝に恵まれた。温泉効果だろうかと思いを巡らせた。
旅館では、岩子の生涯を分かりやすく伝える紙芝居「みずあめの歌」も披露されている。若女将は旅館を残していくことと同じくらい、岩子の功績を後世に伝えることも大切にしている。
「旅館の利用者にも岩子の存在が広まれば」。岩子への思いは次の世代にしっかり受け継がれている。温泉と岩子への強い思いを聞き、凛(りん)とした気分になった。
【メモ】山形屋=喜多方市熱塩加納町熱塩字北平田甲347の2。炭低温サウナと温泉が日帰り可。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【「福祉の母」誕生のきっかけに】熱塩温泉の奥に位置する示現寺は、平安時代初期に空海が建立し、1375(永和元)年に源翁禅師が再建したと伝わる。文化庁の日本遺産に認定された「会津の三十三観音めぐり」の五番札所に選ばれている。瓜生岩子が同寺を訪れた際、修行僧に諭され、社会奉仕活動を始めたとされている。境内には、岩子の功績をたたえた銅像が設置されており、毎年、墓前祭や慰霊祭が行われている。
〔写真〕瓜生岩子の銅像と墓がある示現寺
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