【 南相馬市・新田川温泉 】 離れても...またここで 震災翌月に再開

 
風鈴が涼しげな音色を奏で、癒やしのひとときを与えてくれる露天風呂

 「野馬追の里」南相馬市原町区の中心市街地から車を西に約20分走らせると、阿武隈山系の山あい、森に囲まれた奥座敷・新田川温泉が現れた。

 同市唯一の天然温泉は無色透明で、水素イオン指数(pH)は9.3とアルカリ性の強さは県内屈指。とろみがあって保湿、保温効果が高い。美肌に良いとされ、「美人の湯」「せっけんいらずの湯」としても知られている。お湯の温度は常に「いい湯加減」の41度程度を保ち、「冬でも湯冷めしにくい」と利用者からも好評だ。

 日帰り温泉施設「新田川温泉はらまちユッサ」は1997(平成9)年創業。サウナやジェットバスなどを備えた大浴場は「かじかの湯」と「かわせみの湯」があり、日替わりで男女入れ替え制。自慢の露天風呂では風鈴が涼しげな音色を奏で、近くを流れる沢のせせらぎとともに、連日の猛暑を忘れさせる癒やしのひとときを与えている。

 そんな市民の憩いの場も2011年3月の東日本大震災時は露天風呂などが損壊。原発事故直後は施設も屋内退避圏内に入り営業休止を余儀なくされ、スタッフも再雇用を前提に全員が一時解雇となった。利用者の多くが避難区域内の住民で、再開後も大きな打撃が予測されるなど存続の危機を迎えた。

 しかし、被災者から「こんな時だからこそ、温泉でゆっくりくつろぎたい」との強い要望が数多く寄せられ、施設は再開へ動きだした。浴槽を修理したほか、スタッフもボランティアで駆け付け、わずか約6週間後の翌4月に営業再開にこぎ着けた。

 ◆黄色いハンカチ

 「スタッフも皆被災したが、励ます側に回り、温泉で少しでも市民に安らぎを提供したかった」とチーフマネジャーの安藤一雄さん(49)は当時を振り返る。

 再開を記念し、11年のゴールデンウイークには映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」に倣い施設駐車場に黄色いハンカチを掲げた。「全国に避難した皆さんの帰還を待ってます」との願いを込めた当時のスタッフの粋なアイデアだった。

 開業からの常連で現在も週3回は通う大和田崇さん(79)も原発事故で一時、山形県に避難したが「南相馬に戻って、まず温泉に向かった。湯船につかると震災前のいつもの面々と再会でき、改めて古里に戻ってきたと実感した」と温泉がつなぐ地域の絆を語ってくれた。

 営業再開から7年が過ぎ、施設には夕方や休日になると、大人から子どもまで多くの市民が訪れ、明日への英気を養う。

 また施設は毎年、お盆と年末年始シーズンは帰省客が訪れ、いつも以上のにぎわいを見せる。「今年のお盆もたくさんの懐かしい顔に出会えました」と話す安藤さん。「これからも温かい温泉で、それぞれの分野で日々、復興に取り組む皆さんの元気の源になれれば」と今日も市民を笑顔で出迎える。

 【メモ】新田川温泉はらまちユッサ=南相馬市原町区深野字荒戸沢15。営業時間は午前11時~午後9時。木曜日定休。入浴料中学生以上800円、3歳~小学生300円。

南相馬市・新田川温泉

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 【ドッグランや遊具備えたSA】はらまちユッサから車で北へ約15分進むと、県内の常磐道では唯一のサービスエリア(SA)でドッグランもある南相馬鹿島SAの利活用拠点施設「セデッテかしま」がある。一般道からも利用できる館内は広域観光ブースをはじめ、ご当地グルメの「なみえ焼そば」などが楽しめる食堂や地元で採れた新鮮野菜、地元産品などを販売するスペースが設けられ、連日大勢の来場者でにぎわっている。このほか敷地内には遊具もあり、「ボールトランポリン」は子どもたちの人気を集めている。

南相馬市・新田川温泉

〔写真〕連日大勢の来場者でにぎわう「セデッテかしま」