【 猪苗代町・中ノ沢温泉 】 つかって、飲んで...先人の情熱「源泉」

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安達太良山の源泉から引き湯された湯は、胃腸病や肌に良いとされている

 「一度浴びれば一年病まぬ。胃には会津磐梯の中ノ沢」。安達太良山中腹に源泉を持ち、胃腸の名湯として江戸時代中期から湯治場として長く愛されてきた。中ノ沢温泉街は猪苗代町東部の山あいに位置し、福島市側から下る国道115号から安達太良山方面に数百メートル、郡山市からは母成グリーンラインの出口に当たる。

 花見屋は温泉街で最も古くからある旅館のうちの一軒。源泉掛け流しの露天風呂と内風呂、貸し切りの家族風呂がある。庭園露天風呂は開放感にあふれ、浅めの湯船に肩まで入ると、視線が自然に庭園と青空の景色をとらえた。これからの季節、秋の紅葉や冬の雪化粧と、会津の山間部ならではの景色に期待が高まる。少しぬるめの湯のおかげか、入浴客とついつい話がはずんでしまう。

 内風呂は深め。「胃腸の名湯」の名の通り、酸性硫黄泉の泉質で、効能の一番手は胃腸病だ。「飲んで味わう楽しみもあるんです」と花見屋会長の古川泰一郎さん(69)に聞いていた。湯船に注がれる湯をひとすくいして口に含むと、体験したことのない強烈な酸味が広がった。水素イオン指数(pH)2.1の酸性泉は胃腸病や糖尿病に効果があるとされ、古川さんは「1回におちょこ1杯が適量。毎日飲み続けるために容器で持ち帰る人も多い」と教えてくれた。

 江戸時代中期、源泉が安達太良山西側中腹に見つかって以来、農閑期の湯治場として利用されてきた。安達太良山を藩境とする会津と二本松両藩が所有権を争い、幕府から「会津藩側にある」との裁定を得た逸話もある。

 ◆若衆らが引き湯

 花見屋はもともと源泉近くにも温泉宿「新花見屋」を構えていたが、険しい山道を登る必要があり、湯治の必要な高齢者や女性は到達できなかった。1885(明治18)年、噴火の影響がない場所にと、中ノ沢への引き湯計画が動き、新花見屋は立ち退いた。地元の若衆が1年がかりの難工事を進め、木樋(きどい)で約6キロにわたる引き湯を実現。現在の温泉街形成の礎となった。

 源泉近くは硫黄鉱山として日本硫黄による開発が進み、最盛期には産業に関わる約2000人と家族が住む一大集落が形成された。1913(大正2)年に沼尻軽便鉄道が開通し、15年には沼尻スキー場が開業。古川さんは「鉄道は沼尻鉱山の硫黄を降ろし、首都圏からは観光客やスキー客を運んできた」とにぎやかだった時代を振り返った。

 やがて硫黄鉱山は全国の炭鉱閉山の流れとともに役目を終え、鉄道も廃線から50年目を迎えた。それでも正月やお盆になると、懐かしい顔が戻ってくる。古川さんは「中ノ沢温泉は家族で営む旅館ばかり。お客さんとも家族同士のお付き合いが続いている」と再訪を心待ちにしている。

 遠い源泉から名湯を引いてきた先人の情熱や、人情が紡いできた温泉街の歴史に思いをはせると、湯加減以上に、心まで温まる心地だった。

 【メモ】花見屋旅館=猪苗代町蚕養字沼尻山甲2855の103。日帰り入浴の料金は大人500円、子ども400円。時間は午前10時~午後6時。年中無休。

猪苗代町・中ノ沢温泉

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 【ラーメンに大きな唐揚げ】花見屋のちょうど向かいに立つ「小西食堂」は創業81年目を迎えた老舗食堂。中ノ沢温泉街を訪れる旅行客やスキーヤーらが集まる人気店だ。看板メニューの「スタミナラーメン」(900円)は、さっぱりとしたしょうゆラーメンの上に鶏胸肉一枚の唐揚げや卵が載る、ボリュームのある一杯。ぴりっと辛い「地獄ラーメン」(900円)や、甘めの煮込みカツ丼(950円)も人気のメニュー。営業時間は午前11時~午後7時30分。不定休。

猪苗代町・中ノ沢温泉

〔写真〕小西食堂のスタミナラーメン