【 楢葉町・天神岬温泉 】 困難越えて『魅力』増す 壺湯から海一望
水平線まで見渡せる青い海原と、その前方に広がる木々の緑のコントラストが美しい。まるで一枚の風景画のようだ。
楢葉町中心部の国道6号沿いに整備された復興拠点「笑(えみ)ふるタウンならは」から太平洋に向かって車で約10分の天神岬温泉しおかぜ荘。オーシャンビューの絶景に目を奪われながら、露天風呂の中でひときわ存在感を放つ壺湯(つぼゆ)にゆっくりとつかる。温度は40度ほどでややぬるめ。頬や肩をなでる爽やかな潮風が心地よく、いつまでも入っていられそうだ。
「眼下に太平洋を一望できる露天風呂は珍しいんですよ」。支配人の松本修治さん(64)は誇らしげだ。確かに、これまで県内各地のさまざまな温泉を巡ったが、これほど間近に海を望める露天風呂に出合ったことはなかった。
泉質は塩化物泉。お湯をなめてみると少し塩辛い。とろみのある柔らかな肌触りの湯が体を優しく包み込み、ゆっくりと疲れが癒やされていく。まさに至福の時間だ。皮膚病や神経痛に特に効くとされ、湯上がり後も肌に付着した塩が汗の蒸発を防ぐため保温効果が長く続くようだ。
◆成分濃度3倍に
しおかぜ荘は、1992(平成4)年に営業を開始した。観光誘客の目玉施設として町が整備し、当時は年間15万人近くが入浴に訪れたという。常連という地元の男性は「週末になるとツーリング客でいっぱいだった。子どもの歓声も響いて、あの頃はとてもにぎやかだったな」と目を細めた。
仕事帰りの会社員や高齢者が集う憩いの場として町民からも愛されてきたが、東日本大震災、東京電力福島第1原発事故に伴い状況は一変した。全町避難により営業の休止を余儀なくされたからだ。
避難指示が解除された2015年9月、露天風呂の面積を拡大するなどの改修工事を終え、4年半ぶりに待望の再オープンを迎えたが、すぐに新たな問題に直面した。震災前、約33度だった源泉の温度は地震の影響で地下水が流入したためか約24度まで下がり、成分濃度も薄くなった。ボイラーで源泉を加熱する費用が膨れ上がり経営を圧迫したため、町は開業後初めて新しい源泉を掘ることにした。
掘削は成功し、新たに湧き出たお湯にはうれしい効能が備わっていた。ナトリウムやカルシウム、イオンなどの成分濃度が震災前の3倍に上昇していた。スタッフの中野純さん(28)は「美肌効果も高まり、口コミで遠くは岐阜県から訪れてくれるお客さんもいた」と感慨深げだ。
苦難を乗り越え、新たな魅力が加わった温泉には、壺湯のほか岩風呂、桧(ひのき)風呂、薬湯、寝湯など男湯と女湯に合わせて7種類の湯船がある。男湯と女湯は毎日入れ替わる。湯巡りを楽しんでいると、観光客や町民で再びにぎわう姿が目に浮かんだ。
【メモ】天神岬温泉しおかぜ荘=楢葉町北田字上ノ原27の29。日帰り入浴料は中学生以上700円、小学生300円。時間は木曜を除く月~日曜が午前10時~午後9時、木曜は午後3時半~午後9時。年中無休。
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【マミーすいとん楽しめる定食】しおかぜ荘に隣接するレストラン岬では、多彩なメニューが楽しめる。看板メニューはマミーすいとんと刺し身の定食(税込み900円)。マミーすいとんは、サッカー日本代表元監督のフィリップ・トルシエ氏がJヴィレッジに滞在した際に「故郷のおばあちゃんの味」と評したことから名付けられた。しょうゆベースのつゆと歯ごたえのあるすいとんの相性は抜群だ。このほか、新鮮な刺し身や天ぷらなど品数が豊富な岬膳(同2080円)も人気。営業時間は午前11時~午後2時。原則無休。
〔写真〕マミーすいとん刺し身定食
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