【 喜多方市・日中温泉 】 土地の記憶...守り継ぐ 昔の宿はダムの底

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源泉掛け流しのお湯の色は、鉄分を多く含んでいるために茶色い。ぬるめのお湯でゆっくりつかることができる

 温泉がある場所といえば、多くの人は、清流が流れる山あい、美しい海岸線が望める海辺を思い浮かべるだろう。しかし、喜多方市熱塩加納町にある日中温泉は少し変わった場所にある。山あいの細い一本道を真っすぐ北に車を走らせると、宿よりも先に、雪で覆われた巨大な壁が目に飛び込んできた。岩を積み上げた高さ100メートル以上の日中ダムのすぐ南側に1軒だけ宿がある。不思議な場所だと思いながらのれんをくぐった。

 訪れたのは「ひめさゆりの宿 ゆもとや」。1813(文化10)年創業の老舗旅館だ。「もともとの源泉と宿は、ダムの底に沈んでます」。案内してくれた6代目湯守の檜沢京太さん(42)から思いがけない言葉を聞いた。日中温泉はダム建設が始まる前の1975(昭和50)年ごろまで、今の場所よりも北側、日中ダムの水の底にあったのだ。檜沢さんが、当時の宿の様子が分かる写真を見せてくれた。川に橋を架けて行き来する以前の宿は、今以上に風情があったのがうかがえる。

 ダム建設によって一度はこの地を離れたが、もとの日中温泉に近い場所で営業したいという先代の思いから昔の源泉から下流の場所を掘り、93(平成5)年に今の場所で開業した。「先祖代々受け継いだ温泉で営業したいという思いが強かった」。檜沢さんは昔の写真を見ながら振り返った。

 ◆外にはかまくら

 早速、露天風呂に向かった。日中温泉は、ぬる湯が特徴らしい。温度は約40度、泉質は塩化物・炭酸水素塩泉。水素イオン指数(pH)は6.4。「昔は湯治場として長く滞在する人が多かった」と檜沢さん。今年は例年よりも雪は少ないが、それでも風情たっぷり。春の桜、夏の新緑など四季折々の風景を堪能できるという。温泉に足を入れると、冬だとちょっと寒いくらい。肩までじっくりつかっていると徐々に温まってくる。「ぷつぷつ」。何の音だろう。耳を澄ますと炭酸の泡の音だと分かった。炭酸によって血行が促進され、芯から体が温まり、皮膚病にも効くそうだ。

 温泉から上がると窓の外に大きな白いものが見える。かまくらだ。雪が多い地域ならではの楽しみ方。中に入って雪の喜多方が満喫できるそうだ。「昔は何個も大きなかまくらを作ったものです」。檜沢さんはしみじみと語った。

 館内には「日本秘湯を守る会」を紹介する場所がある。ゆもとやも所属しており、檜沢さんは「秘湯同士のつながりも強い。大きな温泉宿とは違う楽しみ方がある」と提案する。全国の会員の宿を巡るリピーターも多いという。

 宿を出て、改めて一面に広がる雪景色を見ると何だか気持ちがすっきりする。何もないのが妙に心地よい。仕事に忙殺された日々を忘れ、湯とともに自然を心行くまで楽しめる宿。また、日常を忘れに来たいものだ。「喜多方奥座敷 まさしく秘湯なり」。いただいたパンフレットの言葉に納得した。

 【メモ】ひめさゆりの宿 ゆもとや=喜多方市熱塩加納町熱塩字大畑29。日帰り入浴可。

喜多方市・日中温泉

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 【カード見ると詳しくなれる】喜多方市熱塩加納町の日中ダムは、岩の塊を積み上げたロックフィルダムで、1991(平成3)年に完成した。同市の水道や農業用水の水源。同ダムでは毎年、ダムの仕組みを学ぶ日中ひざわ湖まつりが開かれるほか、同ダムから望む景色を撮影する人も多い。日中ダムは、ダムの認知度向上を目的とした「ダムカード」を配布している。全国各地のダムで発行され、表にはダムの写真、裏にはダムの利用目的や着工時期、細かな情報が掲載されている。ダムカードは、平日が日中ダム管理所、土曜、日曜、祝日が県大峠・日中総合管理事務所で配布している。ゆもとやでも配っている。

喜多方市・日中温泉

〔写真〕日中ダムなどで配布されているダムカード