【 会津美里町・新鶴温泉 】 入って良し飲んで良し「地域密着の湯」

 
ひときわ目立つ茶褐色の「人参風呂」。保温効果があり、体の芯まで温まる

 今年の会津は少雪で雪解けも早い。春の訪れを感じながらも、雪化粧した磐梯山を背に、会津若松市内から会津美里町の高台に位置する新鶴地区を目指す。車を走らせること約30分、気付けば景色は一変。眼下には会津盆地と磐梯山が織りなす雄大な会津の原風景が広がる。しばらくすると周囲の建物とは一線を画す、白亜の外観が目を引く建物が現れた。到着したのは新鶴温泉健康センター。センターを運営する会津美里振興公社ほっとぴあ新鶴の支配人・大島司さん(39)が、憩いの場として愛されてきた新鶴温泉の魅力を紹介してくれた。

 新鶴温泉の誕生は1987(昭和62)年。源泉の掘削工事に成功し、現在の施設は90年に完成した。「天然の美を誇るこの吹上の高台に温泉源が眠っていたとは天の恵 地の恵と言わざるを得ない」。旧新鶴村が施設近くに建てた石碑にある一節だ。「新鶴温泉は『美肌の湯』。地域に密着した温泉です」と大島さん。その言葉の答えを探るべく湯船に向かった。

 泉質はアルカリ性単純温泉で、水素イオン指数(pH)は8.6。源泉は45度だが、温泉は41~42度で、ゆっくりつかるには程よい温かさ。湯船は圧注湯、気泡湯、寝湯など多種多様だが、その中でも茶褐色の温泉が目に留まった。

 ◆ニンジンを使用

 「人参(にんじん)風呂」。特別なニンジンのひげ部分を4~5キロ分ネットに詰めて、温泉に毎日浸す。すると、成分が抽出され、温泉が茶褐色に色づくのだ。独特の匂いを想像していたが、ほぼ無臭。温まるのはもちろんのこと、上がった後に体の表面に膜が張ったような感覚に陥る。おそらくニンジンの良い成分にコーティングされたのだろう。ということは体でニンジンを食べたということか。

 施設のロビーで「飲泉」と書かれた温泉の飲み場を見つけた。備え付けの紙コップで一口。ほのかに硫黄の香りが口に広がり、飲み口は柔らかい。大島さんは「体の中から健康になれる温泉」と話す。

 隣の食堂に立ち寄ると、レジカウンターには手作り総菜がずらりと並んでいる。食堂を利用する時間がない利用者や宿泊施設の利用者のおつまみとして買ってもらおうと始まった。夕食のおかずとして買い求める主婦層を中心に人気を集めており、唐揚げや赤飯、白身魚のフライなど種類が豊富で価格も良心的だ。さらには、売店では身不知(みしらず)柿のドレッシングや新鶴ワインなど地元の特産品も販売。施設は温泉としてだけでなく、地域の魅力発信にとっても重要な役割を担っている。

 大島さんは「新鶴温泉がこれからも変わらず、訪れる人にとっての憩いの場になってほしい」と願う。地域発展への期待が掛かる新鶴温泉。前出の石碑の最後にはこう記されている。「願 源泉の不変永劫盛りあらん事を」

 【メモ】新鶴温泉健康センター=会津美里町鶴野辺字上長尾2347の40。日帰り入浴料510円。年中無休。

会津美里町・新鶴温泉

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 【素材の味生かしたパスタ】新鶴温泉健康センターの近くにある「カフェ&マルシェ Hattando(はったんどう)」では、会津盆地と磐梯山の景色を眺めながら、会津産の食材を使った料理を堪能できる。同店は、地域活性化に取り組む地元有志が2013(平成25)年にオープンした。一押しは、素材本来の味を生かした「まるごとトマトパスタ」(ドリンクとサラダが付くランチセットで税込み1150円)。ほかにも会津農林高の生徒が生産した新鮮卵を使用している「農高(のうこう)たまごのオムライス」は人気の逸品だ。営業時間は午前11時~午後5時(同4時30分ラストオーダー)。

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〔写真〕トマト本来の味を楽しめる「まるごとトマトパスタ」