【 福島市・土湯温泉(上) 】 独り占め荒川の絶景 自然と街が調和

 
勢いよく流れる荒川上流の自然を満喫できる「太子の湯」

 まさに温泉天国。ありきたりだが、湯につかると、ぴったりとこのフレーズが当てはまる。土湯街道の宿場として古くから親しまれてきた温泉郷は今も贅沢(ぜいたく)なひとときを私たちに味わわせてくれるのだ。

 福島市の市街地から車で約20分、市内に住む人なら誰しも一度は訪れたことがあると言っても過言ではないほど名の知れた温泉街は、山あいにあり、その自然と調和した景観を保っている。

 名湯の始まりは千年以上も昔、仏教布教の旅のさなかにこの地に滞在していた秦河勝(はたのかわかつ)が病に倒れた際、聖徳太子が夢枕に現れ「岩代国の突き湯に霊泉あり」と告げた。河勝が夢のお告げに従って温泉を発見し、病を治したという伝説が伝えられる。

 そんな歴史ある温泉街のメインストリートの突き当たりに、旅館「山水荘」はたたずむ。温泉は貸し切り風呂が五つ、大浴場が四つとまさに湯尽くしのおもてなし。1階の「つれづれの湯」と「たまゆらの湯」が最も源泉に近く、アルカリ性の、まったりとした湯という。今回はこれらの中でも一番の売りとなっている露天風呂「太子の湯」を案内してもらった。

 3階の客間の突き当たりにあるその湯の入り口まで近づくと、滝のような音が聞こえてくる。戸を開けると目の前に荒川を望む絶景が広がる。勇壮な川の流れを全身で感じながら石風呂、桶(おけ)風呂にそれぞれつかった。平日の昼前からこの絶景を独り占めし、忙しく働いているであろう世の人を思うと背徳感すら生まれる湯の心地。荒川の川音がまるで聖徳太子のお告げのように「良きに計らえ」と聞こえ、ついつい長湯をしてしまった。 

 ◆柔軟に時代対応 

 変わらぬ温泉の安らぎを提供する旅館ながら、広くその魅力を発信する取り組みにも目が留まる。湯上がりに渡辺いづみ女将(おかみ)が語ってくれた。

 食事はオープンキッチンで、できたてを味わえるように改装。ホームページは英語だけでなく中国語、韓国語版も作り、インバウンドにも力を入れる。実際、宿にはアジアからの観光客の姿もあった。

 新たな取り組みは温泉街全体でも広がっている。旅館とは違ったゲストハウスのオープンや廃業した旅館の再整備など新たな顧客獲得にも力を入れながら温泉街をPRしている。つい先日は同温泉の源泉使用の化粧品が発表されたばかり。「おかげさまで好評です」と広告塔のような美魔女女将の肌つやに驚きつつ思わず年齢を尋ねたところ「いくつに見えます?」と名文句で切り替えされた。その後、教えてもらうと58歳。感服した。

 温泉街を歩きながらこの場所に次は誰と訪れようか考える。家族か気心の知れた友人か、はたまた一人旅か。日常を離れつかの間の贅沢を味わい、温泉街に並ぶこけしがほほ笑んでいるように見えた。

 【メモ】山水荘=福島市土湯温泉町字油畑55。日帰り入浴は大人800円、子ども(3~12歳)700円から。太子の湯と貸し切り風呂は宿泊客専用。

福島市・土湯温泉(上)

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 【こけしモチーフ炭酸飲料人気】福島市から土湯温泉前を通り、国道115号を会津方面へ進むと、道の駅つちゆに到着する。県内第1号の道の駅で山の恵みを生かした飲食メニューと市内を一望できる絶景が人気だ。軽食コーナーの人気メニューは、キノコや山菜、温泉卵の天ぷらをのせた「山のめぐみの天ぷら丼」(税込み800円)。みそ田楽としょうゆの2種類の味が楽しめる名物ちぎりこんにゃく(税込み170円)のほか、おやきやソフトクリームと豊富なメニューを取りそろえる。お土産は、土湯こけしをモチーフにしたサイダーとラムネが人気。そばには散策路の「きぼっこの森」があり、季節の山野草などを観察しながら森林浴を楽しむこともできる。

福島市・土湯温泉(上)

〔写真〕ちぎりこんにゃくや山菜の天ぷらなど豊富な商品を取りそろえる店内