【 郡山市・井戸川温泉 】 時代を読み...賭けに出た!釣り堀から転換

 
ぬるめで長湯を楽しめる露天風呂。つかっているとあっという間に時が過ぎる

 畳の休憩所に一人、また一人とほかほかと温まった客が集まってくる。おしゃべりしたり、昼寝をしたり、ゆっくりとした時間が流れていく。郡山市街地から湖南町方面へ車を走らせること約30分、山並みが間近に迫ったころに見えてくるのが、時代の流れとともに姿を変えてきた、地域に寄り添う湯どころだ。

 「もとは釣り堀だったんです」と明かすのは、3代目の白井修一社長(62)。開業した1971(昭和46)年には温泉はなく、当時ブームだった釣り堀のある旅館だった。流行の変化とともに客足が遠のいた2002年、旅館を継いだ白井社長が日帰り温泉ブームを察して一念発起。温泉掘削に乗り出した。

 掘ること300メートル、湯は出たが、掛け流しにするには足りなかった。あと1日と賭けに出ると、さらに20メートル掘ったその日に湯が噴出、3日間噴き出し続けたという。白井社長は当時を「清水の舞台から飛び降りるような気持ちだった。宝くじが当たったようだと思った」と懐かしそうに振り返る。

 ◆身も心も温まる

 源泉の温度は夏場でも26度とぬるめで、まきを燃やして約40度まで加熱する。まきの焼かれる香りを感じつつ、浴場へのれんをくぐる。内湯と外湯があり、女湯の露天風呂には右手から見事な桜の木が。春は開花時期の問い合わせが多くあるのだそう。夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と四季折々の自然の姿が楽しめる。今の時期は桜の若葉と青空のコントラストが美しい。

 湯はやわらかで、きらきらとした泡が次々と肌につく。泉質はカルシウムナトリウム硫酸塩泉で、水素イオン指数(pH)は9.0。体を温めるのに有効な硫酸イオンの数値は市内有数で、冷え性や動脈硬化防止に効果的だという。

 掘削から3年後の05年、近所の女性が「井戸川温泉の詩」という詩を作った。「井戸川温泉 ぬるいけど 長く入って 温たまり 硫黄の香り 身にしみて(原文)」。楽譜はないが、つい口ずさんでしまうような語感だ。

 取材は5月上旬の昼ごろで、気温は10度弱。源泉掛け流しゆえに、外湯の方がぬるく感じた。だが湯船に肩までつかり、客と世間話をしているとあっという間に40分が過ぎていた。ぬるめのお湯は「長時間話していられる」と好評なのだ。長湯を楽しんで湯船から出ると、冷え性気味の記者もつま先までじっくり温められていた。

 湯上がりには軽食が待っている。人気の豚汁(税込み300円)とウメおにぎり(同100円)を注文すると、芯まで体が温まっているせいか汗をぬぐいながらの完食だった。

 白井社長は「ただいまと言って入ってくるお客さんもいるんですよ」と笑う。じんわりと体を温める湯は、人々の体だけではなく、居心地の良いゆったりとした雰囲気も温め続けてきているのかもしれない。

 【メモ】井戸川温泉=郡山市逢瀬町多田野字休石35。日帰り入浴は600円(税込み)、小学生400円、未就学児100円。利用時間は午前9時~午後8時。

郡山市・井戸川温泉

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 【陶芸体験できるギャラリー】井戸川温泉より少し郡山市街地側の逢瀬町に、青磁や美濃焼、織部焼など幅広い陶器を展示販売する片岡哲さん(65)の陶房兼ギャラリー「月十窯(げっとがま)」がある。京都出身の片岡さんが1997(平成9)年に構えた。片岡さんによる、器やカップなどさまざまな色や形の作品が並んでいる。亀や鳥などの絵付け作品も人気を集めている。陶房では片岡さんによる月2回の陶芸教室や、一日体験も開かれており、好みの焼き物を楽しめる。営業時間は午前9時30分~午後6時30分。不定休のため、営業日は電話確認が必要。

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〔写真〕作品を紹介する片岡さん