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出版されている句集をひもとくと、裏磐梯を題材にした句は、昭和10年、昭和13年、昭和15年に集中している。新境地を拓ひらこうとして、度々足を運んだのだった。
とくに、私が愛唱句としているのは、猪苗代町の川上温泉の入り口や、その手前でつくった作品である。いずれも色彩感にあふれている。
山津波新しき瀧を岨そばに懸く
牧へ行く仔馬こうまが瀧に打たれ過ぐ
川上温泉の入り口で、山津波によって磐梯山の一角が崩れ、地形を一新してしまった。
そこを車で通りかかった作者は、新しく崖がけができ、さらに、瀧までかかっていたのに、度肝を抜かれたのである。泥の悪路になっていたために、車も傾きながら通り抜けたのだ。
もう一つの句は、かなり想像が加わっているともいわれるが、山津波の跡にさしかかる半里ほど前で、実際に目撃したのがベースになっている。
草鞋穿わらじはきの男にひかれていく二頭の仔馬こうまを見て、瀧のしぶきに濡ぬれていくさまを思い描いたのだ。同行していた友人から「あれは牧場に連れて行くのです」と聞いたので、瀧のしぶきに打たれる仔馬を連想したのだろう。
秋桜子は、馬の優しい目と視線が合ってしまったのだろうか。可憐かれんな生き物としての体温が伝わってくる。
この2つの句を口ずさみ、さらには今回取材してみて、川上温泉の真上に磐梯山がおおいかぶさっているというのを実感した。猪苗代町に属していながらも、裏磐梯の玄関口なのである。
そして、秋桜子の「細野牧場と檜原湖」を句にしたなかの一句については、磐梯山の登山口で、すぐ目の前に磐梯山がそびえていることもあって、川上温泉での作と私は勝手に決め付けている。イメージが重なるからだ。
空近く噴火の温泉あり星祭り
きらびやかなホテルや旅館がひしめくのではなく、素朴な民宿が中心なのだから、星空はどこまでも澄み切っている。源氏蛍の群生地としても知られている。さらに、五色沼のハイキングコースに行くにも、便利である。
瑠璃るり沼に瀧落ちきたり瑠璃となる
やはり、水原秋桜子の句である。沼に流れ落ちる小さな瀧の水が、周囲の蕗ふきの葉をゆるがせているが、それが水面に落下すると、瑠璃色に染まる情景に圧倒されたのだろう。
瑠璃色とは、紫を帯びた紺色のことで、それこそ、自然が与えてくれた賜物たまものなのである。
秋桜子自身も自らの作品を「岩にせかれた水は白く泡だって見えるが、沼に落ちるとたちまち沼の色と同化して瑠璃色になってしまう。それを面白いと思った」と解説している。
秋桜子にとっての裏磐梯は、「新鮮な風景俳句」(山本健吉)を生み出すには、絶好の場所であり、五色沼だけでなく、新しい瀧にも魅せられたのだ。
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